原子衝突物理学
理工学部 - 物質生命理工学科
SML65100
コース情報
担当教員: 星野 正光
単位数: 2
年度: 2024
学期: 秋学期
曜限: 月1
形式: 対面授業
レベル: 300
アクティブラーニング: なし
他学部履修: 可
評価方法
出席状況
授業参加
リアクションペーパー
定期試験
定期試験期間中
その他
出席状況,リアクションペーパーの提出状況と内容,期末試験の結果で総合的に評価する。なお,正当な理由なく,1)講義に4回以上欠席した場合,2)期末試験を受験しない場合には不合格となる)。また,講義に出席しても演習問題やリアクションペーパーが白紙,または内容が不十分な場合にも欠席とする場合がある。詳細は初回講義でアナウンスする。
詳細情報
概要
本講義では,これまで量子力学や量子化学で学んできたクーロン力により電子が原子・分子内に束縛された「束縛状態」の発展テーマとして,電子が空間を自由に運動し,原子や分子とのクーロン相互作用により散乱される「連続状態」を量子論的に取り扱う「原子衝突物理学」について講義する。原子衝突物理学とは,物理学と化学の境界領域であり,原子・分子レベル(ミクロな視点)から見た化学反応や粒子間の衝突現象とその相互作用のメカニズム,さらにはミクな世界の発光現象や放射線照射による生体内への影響などを解明するための基礎過程として重要な学問分野であり,最近ではプラズマ形成の基礎課程として様々な応用分野でも期待されている。本講義では,原子衝突分野の中でも,外部電場により加速された電子と気相原子・分子との衝突過程をミクロな視点から理解することを目的とする。目には見えない電子と原子・分子の衝突から化学反応やプラズマ形成機構のミクロなレベルで解明するための基本的な概念を古典論・量子論の双方の視点から理解し,それらを観測するために必要な実験装置や測定原理,最近の研究結果や応用分野も踏まえて講義する予定である。 2024年度は,ゲストスピーカー(東京エレクトロン テクノロジーソリューションズ株式会社 松隈正明先生)による2回の特別講義を予定している。これらの回では,本講義で扱う原子衝突の内容が実社会においてどのような役割を果たしているかなどを企業の立場から講義していただく予定である。 本講義は,物質生命理工学科カリキュラム・ポリシー3「原子・分子の視点から物質の創成技術開発に貢献するための能力」の修得,さらにカリキュラム・ポリシー4における(A群)物質とナノテクノロジー(系3材料・分子科学系)に属する科目に該当する。原子・分子物理学の高度な学問的内容を理解し,将来的に化学反応や生体反応に応用・展開するための実験方法や考え方の修得を目指す発展的な物理系専門科目(科目ナンバリングPHY300台)であることを踏まえ,履修に際し,物理・化学の基礎知識が十分に習得されており(あるいは物理や化学に興味があり),現代物理の基礎,原子分子科学,量子物理化学,量子力学などの物理系・物理化学系の科目(科目ナンバリングPHY・CHM200台およびPHY・CHM300台)を履修済(あるいは履修中)であることを前提に講義する。本講義は原則対面の講義形式で実施される。ただし,講義資料の配布はMoodleを使って行う予定である。Moodleの登録キーに関する情報は,初回授業の1週間前までにLoyola「授業掲示」に掲出する。
目標
本科目は,物質生命理工学科ディプロマ・ポリシー3,4に関連して,物質・生命の基礎を体系的に捉える原子・分子的な視点を養った上で,さらに化学反応や生体反応,そして将来的には物質・ナノテクノロジーへ応用・展開するための実験方法や考え方を習得することを主な目的とする。具体的には, 1)これまで科目ナンバリング100台から200台で学んだ電子が原子・分子内にクーロン力により束縛された「束縛状態」に対し,本講義ではそこから一歩踏み込んだ電子が空間を自由に運動し,無限遠より標的である原子・分子に接近したのち,クーロン力により相互作用を受けて散乱される「連続状態」の物理学を学ぶことで,既存のマクロ(古典的)な視点による衝突現象に捕らわれることなく,ミクロ(確率論的)な考え方から柔軟な科学的視点を身に着ける。 2)古典論・量子論の双方の視点から身の回りでおこる物理現象,特にプラズマ現象の基礎を俯瞰することで,化学反応機構や身の回りにある物質の構成を解明するための科学的応用について理解し,我々の身の回りにある様々な物理現象に対して興味を持ち,一歩踏み込んで深く考えることのできる能力を養う。
授業外の学習
本講義では,多くの学生にとって初めて触れることとなる概念が多くあるため,事前配布の講義資料の予習が不可欠である。また,講義内容に関する理解を深めるために授業の内容確認やリアクションペーパーが毎回出題される。確認問題やリアクションペーパーの内容は,以降の講義や期末試験の出題内容にも関わる重要な問題や調査を含むので,次回の講義までに必ず理解しておくこと 【予習】 事前にMoodle上から配布された講義資料に目を通し穴埋め箇所の予想し,新たな専門用語や物理現象については,参考図書まどから調べておく(70分/回)。 【復習】 講義終了後は,授業中に提示された確認問題やリアクションペーパーに解答し,講義中に理解できなかった内容や追加で説明された補足事項などについても自分で調べて,Moodle上からアップロードして提出する(120分/回)。 また,期末試験のについても,試験準備に対して同様の時間を要する。
所要時間: 190分
スケジュール
- ガイダンス・序論:講義内容全体の説明と原子衝突の一般論について解説する。履修上の注意などを説明するので,可能な限り出席すること。 ※本講義ではMoodleを使用するため,履修予定者は必ず事前にMoodleのIDを取得しておくこと。 ※以下のスケジュールは予定であり,進捗状況・理解度に応じて変更の可能性がある。
- 衝突断面積の定義:本講義で最も重要な物理量である衝突断面積の定義と電子と原子・分子の衝突における散乱過程について学ぶ
- 電子衝突電離(1):電子と原子・分子の衝突における「電離(イオン化)」過程と,その実験手法,測定結果の見方について理解する
- 電子衝突電離(2):電子と原子・分子の衝突における「電離(イオン化)」の後続過程である解離と質量分析実験の原理について理解する
- 電子衝突励起(1):水素原子と多電子原子の電子状態と電子励起過程の比較と分光学的な項記号について学び,光と物質の相互作用における選択則について学ぶ
- 電子衝突励起(2):電子とヘリウム原子の衝突における光学的許容遷移と発光現象,及び光学的禁制遷移との比較について理解する
- 量子の世界(1):量子論における不確定性関係と電子の波動描像,ポテンシャル散乱について解説する
- 量子の世界(2):電子と原子の衝突を1中心のポテンシャル散乱とみなした場合に起こる「位相のずれ」とは何かについて理解する
- 電子散乱における共鳴現象:電子と原子・分子の衝突における共鳴散乱について学ぶ
- 解離性電子付着過程:前回学んだ共鳴と解離性電子付着過程の関わり,その応用である放射線効果の素過程について考察する
- 原子衝突の応用(1):ゲストスピーカーによる特別講義1(東京エレクトロン テクノロジーソリューションズ株式会社 松隈正明先生)
- 原子衝突の応用(2):ゲストスピーカーによる特別講義2(東京エレクトロン テクノロジーソリューションズ株式会社 松隈正明先生)
- 陽電子衝突:電子の反物質である陽電子と原子・分子の衝突とその応用について学ぶ
- イオン衝突:イオンと原子・分子の衝突とその応用について学ぶ
教科書
講義では,さまざまな原子衝突に関係する現象に触れ,幅広い視野を身につけることを目的としていることから,特定の教科書を指定しない。基本的には,講義開始前までにMoodle上から配布されたスライド・講義中に出題した例題等に基づいて講義を行う。
参考書
「化学のための」原子衝突入門
著者: 金子洋三郎
出版社: 培風館・1999年
原子・分子の衝突
著者: H. マッセイ著(小山慶太訳)
出版社: 共立出版株式会社・1981年