離散数学

理工学部 - 情報理工学科

SIC63100

コース情報

担当教員: 澁谷 智治

単位数: 2

年度: 2024

学期: 秋学期

曜限: 火1

形式: 対面授業

レベル: 300

アクティブラーニング: なし

他学部履修:

評価方法

授業内期末試験

授業期間中

44%

中間試験

授業期間中

44%

小テスト等

12%

その他

授業中に出題する小テスト,および中間試験・期末試験の成績に基づいて評価します。

0%

詳細情報

概要

近年の情報処理技術の発展とともに,離散的な事柄を取り扱うことはますます多くなり,応用数学としての離散数学の重要性は非常に高いものとなっています。本講義では,離散数学の中から「場合の数を求める様々な手法」と「グラフ理論」を取り上げ,その基礎について教授します。また,それらの理解に必要な基礎的な数学についても合わせて教授します。講義を聴くだけでは内容の理解は困難であると思われますので,内容を効果的に定着させるために講義時間内に演習問題を出題します。 なお,本講義を受講する学生は,「データ構造とアルゴリズム(理工学部共通科目)」を履修しておくと得るところが大きいでしょう。また,離散数学における重要な研究分野である符号理論・暗号理論については,春学期に開講される「暗号・符号理論と情報セキュリティ」で取り上げます。 この講義は情報理工学科のカリキュラムポリシーの4「全ての情報分野における基礎的理論を理解するため,数学の基礎科目を通じて,最低限の知識を学生全員に身に付けさせる」科目に相当します。

目標

情報理工学科のディプロマポリシー4に掲げる「情報科学を含むすべての現代科学の理解に不可欠な数学の知識を学び,現代社会の情報技術におけるさまざまな問題を主体的に解決できる能力」を身に着けることを目標とします。各テーマの目標は以下のとおりです。 [組み合わせ論の基礎(前半)] 場合の数を求める基本的かつ有力な手法・概念である - 包除原理 - 母関数 - 差分方程式 について理解し,実際の問題へ応用できるようになることが前半の目標です。 [グラフ理論の基礎(後半)] グラフ理論における基礎的な概念である「木」や「平面グラフ」などの定義と数学的性質を理解し,これらを - 周遊問題 - 彩色問題 - マッチング 等の問題に応用する手法を身に付けることが後半の目標です。

授業外の学習

Moodleを通じて配布する講義録を事前に熟読し,基本的な用語や主要定理の証明の概略について予習をしておいてください。 また,各回の講義内容の理解を深めるための演習問題を毎回宿題として出題します。以降の講義や期末試験の出題内容に関わる重要な問題を含みますので,次回講義までに必ず解いておいてください。 ・講義録による予習:120分程度 ・小テスト,および演習問題による復習:70分程度

所要時間: 190分

スケジュール

  1. 講義の概要とスケジュールの説明, 数学的帰納法 [講義の概要] 第1回目は,講義の前半をガイダンスにあてます。講義で取り上げる内容を紹介するとともに,この講義を通じて受講者の皆さんに伝えたいことについてお話します。講義スケジュールや試験,成績のつけ方についても,このガイダンスで説明します。 また,講義の後半では,離散数学の理論を展開する上で必要不可欠な「数学的帰納法」についてその原理を確認します。 [テーマ] ・ペアノの公理と整列集合 ・数学的帰納法 ・数学的帰納法の間違った使い方
  2. 場合の数と包除原理 [講義の概要] 離散数学におけるもっとも基本的な問題は,場合の数,すなわち「ある条件を満たすものの個数」を数えることと言っても過言ではありません。第2回目の講義では,場合の数を数えるための強力な手段である「包除原理」をとりあげます。まず初めに包除原理に関する例題を吟味した後,その成立を証明します。さらに,包除原理の応用として,整数論における基本的な関数の一つであるオイラー関数の導出と,クローク係の問題と呼ばれる一見不思議な場合の数についてお話します。 [テーマ] ・包除原理とは ・包除原理の応用① オイラー関数 ・包除原理の応用② クローク係の問題
  3. 母関数 [講義の概要] 包除原理を用いて場合の数を求める以外にも,数列として表された場合の数の一般項を,漸化式に基づく母関数を経由して求めたり,漸化式そのものを直接解くことによって求めたりする方法があります。今回の講義では,母関数を経由して数列の一般項を求める手法について,フィボナッチ数やカタラン数の一般項の導出を例にとってお話しします。 [テーマ] ・フィボナッチ数列の導出 ・母関数とその性質 ・母関数の応用 カタラン数
  4. 差分方程式(1) 線形1階差分方程式の解法 [講義の概要] 場合の数を求める3つ目の方法として,数列として表された場合の数の一般項を漸化式を直接解くことによって求める方法を,今回から3回にわたって学びます。1回目は,差分と和分の概念を用いて漸化式を解く「差分方程式論」の初歩として,線形1階差分方程式の解の構造について説明します。 [テーマ] ・差分と和分 ・線形1階差分方程式の解法
  5. 差分方程式(2) [講義の概要] 差分方程式の2回目では,線形1階差分方程式の様々な解法を紹介します。また,より複雑な線形2階差分方程式について,その解の構造を明らかにします。 [テーマ] ・線形2階差分方程式の一般解の構造 ・線形2階同次差分方程式の解法
  6. 差分方程式(3) [講義の概要] 差分方程式の3回目では,線形2階差分方程式の様々な解法を紹介します。 また,講義の後半では,中間試験に備えて重要事項の復習を行います。 [テーマ] ・線形2階同次差分方程式(一般形)の解法 ・その他の線形2階同次差分方程式
  7. 中間試験 第6回目までの講義内容に関する試験を実施します。
  8. グラフ理論(1) グラフの基礎概念/木 [講義の概要] 本講義の後半では,離散数学における主要な研究分野の一つである「グラフ理論」をとり上げます。グラフ理論は,純粋数学の視点から見て興味深い数多くのテーマを含むだけでなく,数理科学や情報科学,様々な工学への多様な関連テーマを含む,極めて重要な研究分野と言えます。第1回目の講義では,グラフ理論の導入として,グラフ理論に登場する用語とグラフに関する 基本的な性質について説明します。 また,データ構造やアルゴリズムの動作を端的に表現することのできるグラフとして,「木」と 呼ばれるグラフは,情報科学の分野で特に重要なグラフ構造の一つです。講義後半では,木の定義と基本的な性質について確認します。続いて,与えられた木に対する全域木の概念を導入し,全域木の総数を求める方法について議論します。最後に,輸送コスト最小化や道路建設コスト最小化問題と深くかかわる,最小重みの全域木の導出アルゴリズムについて紹介します。 [テーマ] ・グラフ理論の用語と基本的な性質 ・様々なグラフ(完全グラフ,正則グラフ,二部グラフ,etc.) ・木の定義と基本的な性質 ・根付き木の同型判定 ・グラフの全域木と探索アルゴリズム
  9. グラフ理論(2) 平面グラフ [講義の概要] 平面上に辺が交わることなく描けるグラフを平面的グラフと呼び,与えられたグラフが平面的であるための極めてシンプルな必要十分条件が知られています。今回の講義では,この必要十分条件を紹介します。また,平面グラフを特徴づける性質の一つとして,オイラーの公式を証明します。さらに,オイラーの公式の応用として,正多面体が5つしか存在しないことの証明を与えます。 [テーマ] ・平面的グラフの定義と基本的な性質 ・グラフの平面性の判定とクラトフスキーの定理 ・オイラーの公式 ・正多面体が5種類に限られることの証明
  10. グラフ理論(3) グラフの周遊問題 [講義の概要] 「与えられた図形が一筆書き可能か否か」という問題は,大昔から人々の興味を引く問題であったと考えられます。この「一筆書き問題」が歴史の表舞台に登場するのは,18世紀初頭のケーニヒスベルグ(現在のカリニングラード)で流行った「ある問題」にまで遡ります。また,この問題を解いた大数学者オイラーの業績は,現代的なグラフ理論の萌芽ともいわれます。 今回の講義では,図形が一筆書きできるための必要十分条件の証明を与え,さらに,実際に一筆書きを与えるためのアルゴリズムを紹介します。また,グラフを巡回するもう一つの問題である「ハミルトン閉路問題」を紹介し,情報セキュリティや計算量理論の分野における「巡回セールスマン問題」との関連についてお話します。 [テーマ] ・一筆書きとオイラーグラフ ・オイラー回路を求めるアルゴリズム ・オイラー有向グラフ ・ハミルトングラフと巡回セールスマン問題
  11. グラフ理論(4) グラフの彩色問題 [講義の概要] 国境を接する国同士の色が互いに異なるように地図を塗り分けるには,高々4色あれば十分であることが知られています。この数学的事実は「4色問題」として有名であり,また,その証明において史上初めてコンピュータが本質的な役割を果た,記念碑的な問題です。 今回の講義では,このような歴史的経緯を紹介するとともに,条件を少し緩めて「5色あれば塗り分けられる」ことの証明を与えます。 [テーマ] ・4色問題と平面グラフの頂点彩色 ・平面グラフが5-彩色可能であることの証明 ・一般のグラフの頂点彩色と辺彩色
  12. グラフ理論(5) ネットワークと流れ 電力の供給(送電)や生活用水の供給(給水)などのようにネットワークを通じて資源を配布する場合,現状のネットワークの下で効率よく配布する方法や,配布効率を改善するためのボトルネックの発見は,古くからある重要な問題です。これらの問題をグラフ理論的・アルゴリズム的に取り上げます。 [テーマ] ・ネットワークとネットワーク上の流れ ・キルヒホッフの法則 ・最大流を求めるアルゴリズム ・最大流・最小カット定理
  13. グラフ理論(6) マッチング [講義の概要] グラフ理論の最終回では,グラフのマッチングをとり上げます。知り合い関係にある男女のグループにおいて,一人もあぶれることなくカップルが誕生するための条件(結婚定理)など,マッチングの概念は,数理科学・工学だけでなく現実的な応用においてもしばしば現れます。 また,講義の後半では,期末試験に備えて重要事項の復習を行います。 [テーマ] ・マッチングとは ・二部グラフのマッチング ・結婚定理 ・一般のグラフのマッチング
  14. 期末試験 第8回目から第13回目までの講義内容(グラフ理論)に関する試験を実施します。

教科書

指定のテキストはありませんが,講義録,および講義中に提示するスライドのコピーを Moodle を通じて配布します。各自ダウンロードして講義に臨んでください。

    参考書

    離散数学一般,グラフ理論,組合せ論の良書は数多く出版されていますので,図書館などで目を通されてみると良いと思います。以下に挙げた参考書は,各テーマの入門からやや進んだ内容までを取り上げた,比較的読みやすいテキストです。

    • 離散数学(電気・電子・情報工学基礎講座33)

      著者: 斎藤 伸自,西関 隆夫,千葉 則茂

      出版社: 朝倉書店,1989

    • 離散数学への招待 上・下

      著者: J. Matousek, J. Nesetril 著,根上 生也,中本 敦浩 訳

      出版社: シュプリンガー・ジャパン,2002年

    • Graph Theory, 3rd ed. (レベルはかなり高いです。邦訳:ディーステル「グラフ理論」が同出版社から出ています。)

      著者: R. Diestel

      出版社: Springer,2005年

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