原子衝突物理特論
博士前期課程理工学研究科 - 理工学専攻
MSPY7135
コース情報
担当教員: 星野 正光
単位数: 2
年度: 2024
学期: 春学期
曜限: 木4
形式: 対面授業
レベル: 600
アクティブラーニング: なし
他学部履修: 可
評価方法
出席状況
リアクションペーパー
レポート
その他
学期末レポートの提出を単位取得の条件とする(未提出の場合には不合格となるので注意すること)。
詳細情報
概要
本講義では,これまで学部で学んできた電子が原子・分子に束縛された状態を扱う「束縛状態」の物理学から拡張し,電子が空間を自由に運動できる「連続状態」,すなわち電子が無限遠から原子・分子に接近し,相互作用して散乱される衝突現象を理論的な観点から学ぶ。具体的には,電子と原子・分子の衝突現象を記述する最も基本的な物理量である衝突断面積の定義,主に電子と1中心ポテンシャルとしての原子の衝突における散乱理論と衝突断面積の導出過程から出発し,量子力学における電子の波動描像の基本的な考え方と水素原子の波動関数の復習,1中心力場における部分波近似,Born近似を用いた散乱断面積の数学的取り扱いについて詳細に解説する予定である。 本講義科目は,理工学研究科理工学専攻物理学領域のカリキュラムポリシー2において,特に,原子や分子が関わる衝突現象の専門知識を習得することを目的としており,物理学,化学の基礎に加え,三角関数,微分積分,複素関数など数学の知識も必要とし,学部において量子力学,量子物理化学,原子分子科学,原子衝突物理学等,原子や分子に関係する講義を履修していることが望ましい。 なお,本講義は原則対面の講義形式で実施される。講義資料の配布等はMoodleで行う予定である。Moodleの登録キーに関する情報は,初回授業の1週間前までにLoyola「授業掲示」に掲出する。
目標
本講義科目は,理工学研究科理工学専攻物理学領域ディプロマ・ポリシー1,2に基づき,原子分子物理学の専門領域以外の分野についても広い知識を得られるよう様々な現象を例にミクロな視点から講義する。 1)本講義を通じて,自然界を構成する基本単位である原子・分子の関わる現象,特に低エネルギー電子と原子の衝突に焦点を置き,量子論に基づく散乱理論の基本的な考え方と数学的な取り扱いの方法を理解する 2)学部で履修した束縛状態の量子力学を発展させた連続状態のシュレーディンガー方程式をある境界条件で解き,理論計算から得られた散乱断面積と実際に測定された実験結果を比較することで,実験と理論の両面から散乱現象を観察する能力を養う 3)ミクロな世界で起こる様々な衝突現象と我々の身近で起こるマクロな現象との関連について考察する能力を養うことで自分の研究分野に役立てることを目指す
授業外の学習
【予習】Moodle上に掲載された講義資料に予め目を通すことで,その日に学ぶ内容を予習する(30分/回)。また,その日の講義で扱う基本的な数学公式(学部レベルの三角関数,微分積分,複素関数等)について予め復習しておく(70分/回)。 【復習】講義中に省略した途中計算のフォローや講義内容に関する質問などをほぼ毎回のリアクションペーパーとして課す予定である。リアクションペーパーに解答し,その内容を復習する(90分/回)。
所要時間: 190分
スケジュール
- ガイダンスと序論:講義内容全体の説明と原子衝突の一般論について解説する ※以下のスケジュールは予定であり変更の可能性もある ※課題提出としてMoodleを利用する(詳細はLOYOLA掲示板より告知する)
- 衝突断面積の定義:本講義で最も重要な物理量である衝突断面積と微分断面積について学ぶ
- 量子論の復習(1):井戸型ポテンシャル問題を通じてシュレーディンガー方程式の解き方を復習する
- 量子論の復習(2):水素原子の波動関数の導出について復習する
- 量子論の復習(3):1次元のポテンシャル散乱問題について復習する
- 部分波近似(1):量子論における確率流の保存と微分散乱断面積との関係について学ぶ
- 部分波近似(2):電子の中心力場(1中心ポテンシャル)における波動方程式を具体的に解き,電子衝突における弾性散乱微分断面積の導出と電子を波動として扱った際の位相差との関係を学ぶ
- 部分波近似(3):実際に測定で得られた電子衝突断面積の実験結果と理論計算との比較を行い,ラムザウアー極小として観測される量子効果について考察する
- 古典粒子散乱の量子論的取り扱い:剛体球を標的とした電子衝突を低エネルギー極限と高エネルギー極限のそれぞれで量子論的に解き,その衝突断面積を計算することで古典的に定義された衝突断面積(講義計画2)と比較する
- Born近似(1):数学的準備として,複素関数論における留数定理について復習する
- Born近似(2):電子と原子の衝突における相互作用が小さい時の一次摂動を用いた平面波近似による弾性散乱過程の基本的な考え方であるBorn近似と衝突断面積の導出過程について学ぶ
- Born近似(3):遮蔽クーロンポテンシャルを用いたラザフォード散乱断面積の具体的な計算方法と古典的なラザフォード断面積との比較を行う
- Born近似(4):電子衝撃による原子の非弾性散乱過程(電子励起過程)に対するBorn近似の取り扱い方法を学ぶ
- Born近似(5):電子衝撃による原子の非弾性散乱過程のBorn近似を拡張したBEfスケーリングにおける励起断面積について学ぶ
教科書
本講義では,原子衝突に関係する現象に触れ,幅広い視野を身につけることを目的としていることから,特定の教科書を指定しない。基本的には講義前にMoodle上から配布されたスライドに基づいて講義は行われる。より発展的に学習する場合には,以下の参考書を参照のこと。
参考書
原子衝突
著者: 高柳和夫
出版社: 朝倉書店・2007年
電子・原子・分子の衝突(新物理学シリーズ)
著者: 高柳和夫
出版社: 培風館・1996年
原子・分子の衝突
著者: H. マッセイ 著(小山慶太 訳)
出版社: 共立出版・1981年