中世哲学文献研究III

博士前期課程文学研究科 - 哲学専攻

MPPH7230

コース情報

担当教員: 長町 裕司

単位数: 2

年度: 2024

学期: 春学期

曜限: 木3

形式: 対面授業

レベル: 500

アクティブラーニング: あり

他学部履修:

評価方法

出席状況

20%

授業参加

20%

レポート

60%

その他

邦訳テキストは,コ ピーして授業開始時に参加者各自に手渡すようにする (ラテン語及びドイツ語の原典テキストは,マスターコピー版を用意するので,各自がコピーすること)。毎回進む部分を担当するレポーター1, 2名が,邦訳を参照しながら内容のまとめと自らの解釈を呈示し,その後参加者全員で議論・吟味を重ねる。 このレポター担当の参加度も評価に加える。

0%

詳細情報

概要

ヨーロッパの14世紀の中世末期から15世紀のルネッサンス及び近世へと激動する時代状況において展開したキリスト教神秘思想の潮流の中で,その独自の思考内容と厳密な言葉の問題脈絡を有するドイツ神秘思想の系譜をマイスター・エックハルト(Eckhart von Hochheim,1260年頃 ~ 1328年)とニコラウス・クザーヌス(Nikolaus von Kues, 1401 – 1464年)の著作を両者に共通・通底する根本諸テーマの下に数学期に亘って研究する。 テーマとしては,1) 像と同等性 2) 発出と還帰 3) 創造の理解 4) (神の)子であることと分有 5) 否定性の理解 6)〈一〉の理解 7) 肯定神学と否定神学との関係 8) 精神論と知恵の理解,等が先ず第一次的に挙示されるが,エックハルトのドイツ語諸説教及びドイツ語諸論稿からのクザーヌスへの影響関係をクザーヌスの諸テキストにおいて探求・考証する読解を先行させ,更に後にクザーヌスの諸テキストを通して追究された諸々の思考要因について,エックハルトのラテン語諸著作の解釈へと立ち返って考察を深めるという手法を取る。更に,クザーヌスの思考の主題的展開をダイナミックに縦横に捉えることができるように試みたい。テキストの原典講読を中心とするのでラテン語とドイツ語の知識と理解が大いに役立つが,多くのテキストにはすぐれた邦訳(たとえ邦訳がなくても英訳)があるので,広く宗教哲学と宗教思想に関心を有する(他研究科や他大学の)大学院生の参加も含めて,大いに議論できる授業内容としたい。邦語の参考文献については,授業中に適宜呈示する。 本年度は,昨年度春学期でのテクストを継続してのと2年越しで,ニコラウス・クザーヌスの晩年の大著『知恵の狩猟』(De venatione sapientiae, 1463年)を熟読・解釈してゆくことを通して,彼自身のこれまでの思索の軌跡を辿り直すと同時に,知ないし知恵を探求する哲学者たちの思惟の歴史が根源的に絶えず究明せんとしたところのものへのダイナミズムを明察する歩みを共にしたい。本書は,アウグスティヌスが自らの諸著作を振り返って注記した Retractationes,カントの著作群に比するならば言わば『再考録(Reflexionen)』に相当するものであり,クザーヌスの神探求の道程における思惟の滞留地が改めて〈狩猟の場(campus)〉として際立たしめられることになる。授業回数が制限のある中であるが,最後の回には初期クザーヌスの根本的思想境位を示す『隠れたる神についての対話(De deo abscondito, 1445年)』を改めて検討したい。

目標

極めて独創的な思考内容を有するエックハルトとクザーヌスのテキストを読解する力と共に,各テキストが示す中心テーマと主導的な問題脈絡の把握を表明・提示できることが第一の目標である。更に,ゼミナー参加者各自の専門とする研究領域との関連で,ドイツ神秘思想の潮流から蒸留されてくるキリスト教神秘思想の内実と独自の思考の在り方をどのように省察することができ査定できるのかをレポートで呈示できることが,最終的な到達目標となる。また,影響作用史(Wirkungsgeschichte)におけるエックハルトとニコラウス・クザーヌスの意義を,ドイツ観念論と今日の現象学的思惟に至るまで問題化できることが更なる展望と言える。 ・ヨーロッパ中世からルネッサンス期のテキスト文献(ラテン語,高地ドイツ語)を 読解する能力を培養する(ゼミナー参加者各自が毎回のテキスト範囲を邦訳で参照 しつつも原典 で 熟読し,内容を総括して自らの解釈を準備することが求められ る)。 ・授業時に呈示される諸参考文献の研究を通して,自らの哲学的発展に益するよう努 力することも大学院生らしい勉強態度として要求される。 ・ゼミナール参加者各自の専門とする研究領域との関連で,ドイツ神秘思想の潮流か ら蒸留さ れてくるキリスト教神秘思想の内実と独自の思考の在り方をどのように 省察することがで き査定できるのかをレポートで呈示することが,最終的な到達 目標となる。

授業外の学習

ゼミナール参加者各自が毎回の Seminar - Sitzung でのテキスト範囲を原典で(もしくは邦訳を用いて)熟読し,内容を総括して自らの解釈を準備することが求められる。その上で,授業時に呈示される諸参考文献の研究を通して,自らの哲学的発展に益するよう努力することが大学院生らしい勉強態度であろう。ゼミナールでのディスカッションの活性化の上で,前回の議論内容を短くまとめて報告する ProtokollantIn 1名と当日のテキスト内容の担当者1名とを毎回決めるようにしたい。

所要時間: 復習には60分程度,予習には130分程度を目安とする。内容については授業時に伝達する

スケジュール

  1. 導入 ― ニコラウス・クザーヌスの思惟の根本特徴と発展の諸位相について /テキスト配布と担当箇所確認, 授業の進め方,学期末レポート /テキスト講読とディスカション ― (1) : 『知恵の狩猟について』(上記 「キリスト教神秘主義著作集」 1) 第21章
  2. テキスト講読とディスカション ― (2) : 『知恵の狩猟について』(上記 「キリスト教神秘主義著作集」 10) 第21章 - 22章
  3. テキスト講読とディスカション ― (3) : 『知恵の狩猟について』(上記 「キリスト教神秘主義著作集」 10) 第23章
  4. テキスト講読とディスカション ― (4) : 『知恵の狩猟について』(上記 「キリスト教神秘主義著作集」 10) 第24 - 25 章
  5. テキスト講読とディスカション ― (5) : 『知恵の狩猟について』(上記 「キリスト教神秘主義著作集」 10)第26章
  6. テキスト講読とディスカション ― (6) : 『知恵の狩猟について』(上記 「キリスト教神秘主義著作集」 10)第26 - 27章
  7. テキスト講読とディスカション ― (7) : 『知恵の狩猟について』(上記 「キリスト教神秘主義著作集」 10)第28 - 29 章
  8. テキスト講読とディスカション ― (8) : 『知恵の狩猟について』(上記 「キリスト教神秘主義著作集」 10)第 29 ~ 30章
  9. テキスト講読とディスカション ― (9) : 『知恵の狩猟について』(上記 「キリスト教神秘主義著作集」 10) 第30 ~ 31章
  10. テキスト講読とディスカション ― (10) : 『知恵の狩猟について』(上記 「キリスト教神秘主義著作集」 10)第 32 ~ 33章
  11. テキスト講読とディスカション ― (11) : 『知恵の狩猟について』(上記 「キリスト教神秘主義著作集」 10)第34 ~ 35章
  12. テキスト講読とディスカション ― (12) : 『知恵の狩猟について』(上記 「キリスト教神秘主義著作集」 10) 第36 - 37章
  13. テキスト講読とディスカション ― (13) : 『知恵の狩猟について』(上記 「キリスト教神秘主義著作集」 10) 第38章
  14. テキスト講読とディスカション ― (14) : 『隠れたる神についての対話』
  15. 6月中旬に授業で提示された課題について,参考図書を読んで,レポートを提出準備する。

教科書

『可能現実存在』(1460年)『非他なるもの』(1462年)に続いて,後期クザーヌスの晩年の大著。クザーヌス自身が「いまやディオゲネス・ラエルティオスの著『ギリシャ哲学者列伝』において様々な哲学者の知恵の狩猟を読んで,私は,人間の内に生じ得る最も甘美な思索,好ましい思索に全身全霊を傾けたのだった」と述懐している。序言と39章からなるこの著作は,クザーヌス自身のこれまでの思索の軌跡を辿り直すことにもなる。

  • De venatione sapientiae ( Die Jagt der Weisheit) 1463, in : Nicolai de Cusa Opera omnia iussu et auctoritate Academiae litterarum Heidelbergensis ad condicum fidem edita, Vol. ⅩⅡ, ed. Raymundus Klilansky et Johannes Gerhardus Senger, pp. 3 - 113.

    著者: Nikolaus von Kues

    出版社: Felix Meiner Verlag , Hamburg 1982

  • 『知恵の狩猟について』(「キリスト教神秘主義著作集」 10 クザーヌス に所収)

    著者: ニコラウス・クザーヌス(著) / 酒井 紀幸・岩田圭一(訳)

    出版社: 教文館 2000年

  • 「隠れたる神についての(De deo abscondito, 1445年)」

    著者: ニコラウス・クザーヌス(著) / 大出哲・坂本堯(訳)

    出版社: 創文社,1972年

参考書

中世後期から近世初頭へと展開するドイツ神秘思想の系譜の理解を深め,キリスト教思想と霊性の伝統を掘り下げてゆく。ニコラウス・クザーヌスの哲学的・神学的思想と生涯についての最適の入門書として,Kurt Flasch, Nikolaus von Kues. Geschichte einer Entwicklung: Vorlesungen zur Einführung in seine Philosophie, Vittorio Klostermann Verlag, 3. Auflage 2008 (その一部分は,矢内 義顕 訳 『ニコラウス・クザーヌスとその時代』 知泉書館を参照してください。 また,比較的近年に刊行された M. Broesch / W. A. Euler / A. Geissler/ V. Ranff ( Hrsg.) , Handbuch Nikolaus von Kues. Leben und Werken, Wissenschaftliche Buchgesellschaft, Darmstadt 2014 は,クザーヌスの思考発展の道筋とその諸著作についての事典として,優れた叙述が見られます。

  • 『クザーヌスの思索のプリズム』

    著者: 八巻 和彦

    出版社: 知泉書館,2019年11月

  • Nicolaus von Kues : De venatione sapientiae : Akten des Symposiums in Trier vom 23 . bis 25. Oktober 2008 ,( Mitteilungen und Forschungsbeiträge der Cusanus-Gesellschaft 32 )

    著者: Walter Andreas Euler ( Hrsg. )

    出版社: Paulinus Verlag, Trier 2010

  • Praegustatio naturalis sapientiae. Gott suchen mit Nikolaus von Kues

    著者: Klaus Kremer

    出版社: Verlag Aschendorff , Münster 2004

© 2025 上智非公式シラバス. All rights reserved.