国際開発協力研究:東南アジア
博士前期課程グローバル・スタディーズ研究科 - 地域研究専攻
MFAS8000
コース情報
担当教員: 長瀬 理英
単位数: 2
年度: 2024
学期: 秋学期
曜限: 金2
形式: 対面授業
レベル: 500
アクティブラーニング: あり
他学部履修: 可
評価方法
授業参加
リアクションペーパー
レポート
その他
レポートは期末レポートで,課題のテーマには地域に限定されない地域横断的なものや東南アジア地域以外のものも含まれる。
詳細情報
概要
国際開発協力では,「協力する」側の原理・原則に基づく「モノサシ」(意思決定規準)や協力の背後にある利害といった思惑によって,採り得るアプローチが大きく左右される。また,「協力される」側の利害,とりわけ属性や特徴(政府,企業,住民などステークホルダーの種類)の違いによっても影響が異なってくる。最も協力を必要とする当事者にとってどのようなあり方が良いのか?協力する側の利害と協力される側の利害が不一致となる場合にどのような立場を取るべきなのか?東南アジア地域を中心に,政府および市民社会による現場での協力事例を踏まえ,貧困に対する様々なアプローチを理論と実践の両面から検討する。そのため,映像や一次資料を参照しながら,議論を通じ具体的な理解や批判的考察(異なる観点からの思索)がはかられるようにする。受講生との話し合いによって反転授業(知識習得の要素をオンデマンド/オンラインで,知識確認や討論を対面で行う授業形態)を実施する。 授業用資料は基本的に,授業日の前日までに配布する。 リアクションペーパーの作成およびフィードバックは授業内で実施する。期末レポートについては各提出物にコメントをつける。
目標
東南アジア地域を中心とするが,地域の違いを越えて適用される貧困への取り組みのアプローチに関する理解に重点を置く。その際,環境および社会・文化を基盤とした「持続可能な開発」の枠組みと顕著に進む「安全保障化」も視野に入れる。国際開発協力は,①協力をする側の枠組み/パラダイムに大きく左右されること,また,②この枠組みは複数存在し,どの枠組みに依拠するかで協力を受ける側の各ステークホルダー(利害関係者)に異なる影響が生じること,さらには③どのような利害的関心からどの枠組みを選んでいるのかについて理解できる。これにより,国際開発協力を例として,異文化社会およびひとびとに対する主要なアプローチを批判的に検討でき,まずもってローカルな文脈,特に当事者である個人やその社会・文化および環境を尊重する必要性について理解できる。安全保障化について考察を深めることができる。最近バズワードとなっているwell-beingと agencyは何かについて基礎から理解できる。
授業外の学習
予習では授業用資料を一読し,内容について理解し,質問やコメントを作成するとともに,授業での議論に積極的に参加する準備をしておくことが期待される。また,復習では理解の確認と思索を深めてさらなる質問やコメントを作成し,次回授業に反映させることが期待される。リアクションペーパーの作成は1回,授業の中での議論の基礎とする。
所要時間: 予習では事前配布資料の読解,質問・コメントの作成に120分,復習では授業内での討論の振り返りとさらなる考察に70分かける。
スケジュール
- オリエンテーション: 自己紹介,講義内容に関する意見交換.。国際開発協力のパラダイムの変遷:市場中心→人間中心/人権→持続可能性(環境・社会を基盤とする「ドーナツ経済」)。安全保障化が顕著に進む開発協力の動向(日米の対フィリピン援助)
- 国際開発協力の現場(1):大メコン圏(GMS)地域経済協力プログラムと流域住民の暮らし 経済回廊を中心とする地域開発,多国間機関(アジア開発銀行(ADB)),日本政府・企業,中国の「一帯一路」構想などとの関わり。カンボジア・トンレサップ湖に暮らす零細漁民を中心としたドキュメンタリー視聴
- 国際開発協力の現場(2):GMS地域経済協力プログラムのステークホルダーに対する効果と影響 トンレサップ湖周辺の住民,ステークホルダー,現状の問題点,南部経済回廊とその効果・影響【リアクションペーパー:南部経済回廊の様々なステークホルダーの視点に立った開発の評価】
- 国際開発協力の現場(3):NGOの取り組みートンレサップ湖零細漁民をめぐるガバナンス 漁業資源減少に関する直接支援(対零細漁民)とアドボカシー(対政府間機関,政府,企業,国際機関)
- 経済成長(所得)アプローチ(1):プロジェクトと経済成長 プロセスとサイクル-実施と評価。ステークホルダーから見る実態。事例:ベトナムのカントー橋建設事業。「報道ステーション」視聴を踏まえ現場と政策レベルの矛盾について考察・議論する。
- 経済成長(所得)アプローチ(2):フィージビリティ・スタディと事後評価 費用便益分析と問題点。事例:インドネシア・コトパンジャンダム。世界ダム委員会「権利とリスク」アプローチ
- ケイパビリティ・アプローチ(1):「絶対的貧困」,「相対的貧困」,「ケイパビリティからみた貧困」 概念的枠組みの相異を具体例を通じて理解する。事例:日本国内の「貧困高校生」および「子どもの貧困」をめぐる論議ーNHKニュース7,NHKスペシャル,フジテレビドラマ「健康で文化的な最低限度の生活」視聴を踏まえ,絶対的/相対的/自由(潜在能力/ケイパビリティ)の貧困について考察・議論する。
- ケイパビリティ・アプローチ(2):演習① 事例「本を読むことができる」―障害者,路上生活者への焦点。形式的機会平等/実質的機会平等/結果平等の相違ー入試における不平等是正措置/生活保護受給世帯の大学進学。フランス(およびドイツ,イギリス)における実践と応用。
- ケイパビリティ・アプローチ(3):演習② 事例:路上生活者の公共図書館利用,韓国子どもコミュニティセンターを通じて「夢を見ることができる」について考察・議論する。
- ケイパビリティ・アプローチ(4):「人間開発(Human Development)」 概念的枠組みと国連開発計画(UNDP)の事例。「誤訳」からみるケイパビリティ・アプローチとの関連性。所得アプローチとの相違。最近の動向。
- ケイパビリティ・アプローチ(5):「人間の安全保障(Human Security)」 概念的枠組みと日本の事例。メコン河流域開発にみられる取り組みのレビュー。ケイパビリティ・アプローチ,人間開発および人間の安全保障の相互関係。事例:タイの人身取引への技術協力について考察・議論する。
- ケイパビリティ・アプローチ(6):実践的アプローチとしての「持続可能な生計アプローチ(Sustainable Livelihoods Approach)」 概念的枠組み,インドの飢餓根絶目標と実態の乖離に対する適用
- ライツ・ベースト・アプローチ: ニーズ充足・プロジェクト型アプローチに代わる,権利(人権)を基本とし社会運動につながるアプローチの有効性と限界。事例:ネパールの債務奴隷。フィリピンのバタンガス港拡張事業,マニラ水道民営化と日本政府(外務省)へのアドボカシーを踏まえ,人権アプローチの適用可能性について考察・議論する。
- アドボカシー・アプローチ: 市民社会による持続可能な開発目標(SDGs)への取り組み,特に貧困問題に関する政府へのグローバルな働きかけ。日本内外の市民社会の事例
教科書
毎回の授業資料を事前に配布する
参考書
随時,参考文献を紹介していく。以下に若干の参考文献を挙げる。
不平等の再検討―潜在能力と自由(岩波現代文庫版)
著者: アマルティア・セン著,池本幸夫,野上裕生,佐藤仁訳
出版社: 岩波書店,2018年
ドーナツ経済(河出文庫版)
著者: ケイト・ラワース著 黒輪篤嗣訳
出版社: 河出書房新社,2021年
「『普遍的価値』と『人間の安全保障』」甲斐田万智子 佐竹眞明 長津一史 幡谷則子共編著『小さな民のグローバル学―共生の思想と実践をもとめて』
著者: 長瀬理英
出版社: 上智大学出版,2016年