論文演習Ⅱ(応用)
博士前期課程経済学研究科 - 経済学専攻
MEEC7702
コース情報
担当教員: 出島 敬久
単位数: 2
年度: 2024
学期: 秋学期
曜限: 月6
形式: 対面授業
レベル: 500
アクティブラーニング: あり
他学部履修: 不可
評価方法
出席状況
授業参加
その他
出席状況と先行研究に関する報告と議論をもって評価とする。
詳細情報
概要
先行研究を確認する論文演習Iに続き,論文演習IIでは,実証研究のモデルとデータについて具体的に検討する。 経済学の実証研究で論文を完成させるためには,適切なデータセットと分析手法を選ぶことが不可欠である。しかし,理論上求められるデータが乏しいために,研究目的にある仮説が検証できないことが経済学ではよくある。 たとえば,夫の教育水準とその労働時間・賃金と,妻の教育水準とその労働時間・賃金の関係などは,労働供給関数の推定や税制や社会保障制度の効果の検証には,不可欠なデータとなる。具体的には,なぜ共働きが増えているのか,晩婚・非婚・少子化が進むのかを検証するためには,夫婦となる男女の教育水準や働き方のデータが必要となる。 ところが,夫と妻の教育水準や労働時間と賃金が同時に分かるのは,政府統計では,5年ごとの調査である総務省統計局の「就業構造基本調査」しか存在しない。この分野の実証研究が欧米に比べて困難である理由の一つは,分析上十分な情報をもつデータが乏しいことである。しかも,こうしたことは,先行研究やその分野のデータに詳しい者しかわからない。逆に言えば,自分が研究したい課題に先行研究が乏しいのは,「適切なデータが存在しない」ことが理由の場合も多く,その場合は先行研究を正確に理解しても,データの点で実行不可能な研究となる。そのために,受講者の研究課題に関して,データと分析手法を十分に検討していく。 また,適切なデータが存在しても,見かけの因果関係が相関関係とは限らないことも重要である。現代的な因果推論の手法として,政策の対象となる処置群と対象とならない統制群の前後変化を比較するような差の差推定法なども検討する。
目標
この分野の実証研究の修士論文の作成に必要なデータセットの所在を理解していることと,汎用される基礎的な計量分析手法を理解していることが目標になる。理論モデルに必要なデータがそう都合よく揃わないことが,この分野共通の永遠の困難である。その困難を共有して,克服する手法を検討できること,さらに因果推論の手法についても検討できることが目標となる。
授業外の学習
理論モデルの検証に必要なデータの所在については,体系的な説明が困難で,そのような教科書もほとんどないため,各自が探索することが求められる。その際の試行錯誤が予習と言える。
所要時間: 190分
スケジュール
- 労働経済学の実証分析で応用的な問題の概観 (以下のトピックス例から,学生の研究課題に応じて内容を選択する。)
- 仕事に対する選好の差を補償するための賃金支払としての補償賃金格差
- 補償賃金格差を計測するためのヘドニック賃金関数
- ワークライフバランスなど仕事の諸属性の分析へのヘドニック賃金関数の応用
- 人的資本の性質とその最適投資の理論
- 教育投資の意思決定と観察される事実
- 教育の限界収益率の測定とセルフセレクションバイアス
- 教育のシグナリングモデルと人的資本理論の識別
- 教育訓練の正の外部性と社会的限界収益率
- 企業内教育訓練の種類とその費用分担
- 勤続年数と賃金に関する理論とその計測の実際
- 教育訓練に対する各種補助金とその効果
- 労働移動とその要因の計量分析
- 失業の理論的説明と様々な実証分析
教科書
各自の研究に関連する先行研究をリストアップして,それらをテキストに代わるものとする。
参考書
日本の労働市場に関する実証分析を通読できる研究書として,以下を挙げておく。
Labor Economics, 2nd ed.
著者: Pierre Cahuc Stéphane Carcillo, and André Zylberberg
出版社: MIT Press, 2014
日本の労働市場ー経済学者の視点
著者: 川口大司(編)
出版社: 有斐閣,2017
The Changing Japanese Labor Market: Theory and Evidence
著者: Akiomi Kitagawa, Souichi Ohta, and Hiroshi Teruyama
出版社: Springer, 2019