西洋法制史
専門職学位課程法学研究科
LWS55100
コース情報
担当教員: 松本 尚子
単位数: 2
年度: 2024
学期: 春学期
曜限: 木1
形式: 対面授業
レベル: 700
アクティブラーニング: なし
他学部履修: 不可
評価方法
授業参加
リアクションペーパー
レポート
その他
平常点(30%),期末レポート(70%)。平常点については,授業中の発言及び議論への参加を15%,リアクションペーパーを15%として評価する。期末テストに代えて実施する期末レポートでは,授業で扱ったケースをふまえて課題を2つ呈示する。受講者はこの2つの課題の中から1つを選択し,レポートを作成する。
詳細情報
概要
テキストの各ケースを題材に,西洋法制史で問題となってきたいくつかの代表的な法制度や法原則・法的問題についての討議を行う。 担当教員が史的な観点から問題状況を解説したうえで,受講者とともに実定法との関連から問題を捉えなおし,議論を進める。また,法制史の知識がなくても受講できるようにするため,1つのケースに2回の講義を割いて,前半では前提となる基礎知識に重点をおき,後半で本論や発展問題を検討する。授業で使用する部分のテキストはTKCにアップするので,受講者は該当部分を精読してくること。
目標
「実定法を相対的に把握する視点」を涵養することが,最終的な目標である。この目標のもと,過去の紛争を素材にして,その時代背景を踏まえつつ法学の発展過程を理解してゆくことを目指す。
授業外の学習
予習はテキストの該当部分を精読し,疑問点を明らかにしておくことである。1回の授業のための予習時間は1時間程度が見込まれる。 復習の一環として,リアクションペーパーや期末レポートの作成を課すことがある。作成に要する時間は総じて20時間程度が見込まれる。
所要時間: 190分
スケジュール
- 第1回 オリエンテーション――「ケースから学ぶ西洋法制史」とは? 〔授業内容〕 西洋法制史という科目を「ケースで学ぶ」ことの意味,とりわけローマ法および教会法と実定法学との関係について論じる。また,授業で扱うケースの時代や法分野をそれぞれ概観する。 〔到達目標〕 ○ 西洋法制史という科目をロースクールで学ぶことの意味について考える。 ○ 授業で扱う各ケースについてのおおよその概要をつかむ。
- 第2回 ディオニシア対カイレモン事件(テキスト「Case 1」) 〔授業内容〕 紀元2世紀エジプトのパピルス文書に残された,娘の婚姻解消をめぐる父娘間の法的紛争の内容とその時代的背景を解説する。 〔到達目標〕 ○ ローマ支配下のエジプトにおける嫁資および「カトケー」制度を理解する。 ○ 古代のエジプト,ギリシャおよびローマにおける家族法制度のそれぞれの特徴と相違を理解する。
- 第3回 続・ディオニシア対カイレモン事件(テキスト「Case 1」) 〔授業内容〕 受講生の発言をもとに本訴訟の論点を整理したうえで,現行法上の諸制度のとの比較を行う。 〔到達目標〕 ○ 本件の手続きとの比較において,現代日本の家族法上の紛争手続解決制度にみられる特徴を整理し,説明できるようになる。 ○ 本件との比較において,日本近現代の家族法における戸主権と親権の関係を再考する。
- 第4回 ユリアヌスと物権契約の発見(テキスト「Case 5」) 〔授業内容〕 ユリアヌス法文(D. 41. 1. 36)およびウルピアヌス法文(D. 12. 1. 18 pr.)を解説する。 〔到達目標〕 ○ 『学説集Digesta』の法制史上の位置づけを理解する。 ○ ローマにおける所有権移転の要件を理解する。
- 第5回 続・ユリアヌスと物権契約の発見(テキスト「Case 5」) 〔授業内容〕 ユリアヌス法文やウルピアヌス法文が後世に与えた影響および,現代ローマ法学の到達点を解説する。 〔到達目標〕 ○ 物権行為の独自性という議論の意義を考える。 ○ 大から小へのもちろん解釈という考え方を理解して,実定法への応用可能性を考える。
- 第6回 哀しき王孫――アゾ第13質疑――(テキスト「Case 8」) 〔授業内容〕本章I-II,IV-VIを読み,12世紀末に起こった英仏王家のスキャンダルに関する当時の法学上の議論を解説する。 〔到達目標〕 ○ 中世ヨーロッパ封建法の国制上の特徴を説明できるようになる。 ○ 一人の王族の配属や死が封建法上どのような議論を導くのかを理解する。
- 第7回 続・哀しき王孫――アゾ第13質疑――(テキスト「Case 8」) 〔授業内容〕本章IIIから,中世ローマ法学の泰斗アゾの『質疑録』における叙述スタイルを読み解き,ひとつの法的問題に対するローマ法学特有の解決方法を論じる。 〔到達目標〕 ○ 中世ローマ法学のスコラ学的方法を学び,法解釈学の成り立ちを追体験する。 ○ 「委付」「指図」の法技術的意味をローマ法学の手法で説明できるようになる。
- 第8回 婚姻と嫁資と死(テキスト「Case 9」) 〔授業内容〕 14世紀末のフィレンツェで執筆された複数の法鑑定書を題材に,当時,資産として大きな意味を持っていた「嫁資」の相続権を争う事例を分析する。中世イタリアにおける都市法と普通法ius commune(ローマ法・教会法)との関係をテキストから読み取る。 〔到達目標〕 ○ 嫁資という制度の法制史上の意義を理解する。 ○ 『学説集Digesta』その他の法源の成り立ちとそれぞれの役割を理解する。
- 第9回 続・婚姻と嫁資と死(テキスト「Case 9」) 〔授業内容〕 それぞれの法鑑定書の理論展開と,根拠づけの方法を確認する。当該事例の前提となる相続制度と現代の相続制度とのあいだの相違点を明らかにし,今日の相続制度の課題を考える。 〔到達目標〕 ○ 複数の法源が競合する時代における法実務の特徴を理解する。 ○ 相続制度の社会的位置づけと制度的変遷の意味を考える。
- 第10回 ケルン電信事件(テキスト「Case 16」) 〔授業内容〕 近代における電信技術の発展にともない新たに登場した問題に対して,ドイツの法律家がどのように対処したかを解説する。 〔到達目標〕 ○ 契約責任や不法行為責任とは異なる第三の責任(契約締結上の過失)が必要となった背景を理解する。 ○ 意思主義と表示主義の対立が生じた背景を理解する。
- 第11回 続・ケルン電信事件(テキスト「Case 16」) 〔授業内容〕 19世紀に登場した法理論上の概念が,現代においてどういった意味をもっているかを議論する。 〔到達目標〕 ○ 日本の民法理論において,「契約締結上の過失」がどのように位置づけられているかを理解する。 ○ 現代において意思原理と帰責原理が併存している状況を理解し,将来の方向性を考えるさいの考慮要素を確認する。
- 第12回 大審院で裁かれた電気窃盗(テキスト「Case 18」) 〔授業内容〕 「類推解釈の禁止」例として有名なドイツの電気窃盗事件(1896年10月20日の大審院判決)を,法制史の視点から検討する。 〔到達目標〕 ○ 本件で「類推解釈の禁止」が厳格に適用された理由を考える。 ○ 電気は「物」かという問題をめぐる当時の議論状況を整理する。
- 第13回 続・大審院で裁かれた電気窃盗(テキスト「Case 18」) 〔授業内容〕 新しい技術により生じた新しい種類の法益侵害に対して司法はどのように取り組むべきか,という現代の課題を考える。 〔到達目標〕 ○ 日本の電気窃盗事件とドイツのそれとの理論構成を比べる。 ○ 「エネルギー」という法益をどう扱うかという問題の現代性を理解する。
- 第14回 全体討論 〔授業内容〕 各ケースを振り返り,全体的な討論をする。 〔到達目標〕 ○ 歴史上の裁判事例の読み解き方について,自分なりのイメージをもつ。 ○ 現代の裁判手続きや学説形成の特徴を,法制史の視点から捉えなおす。
教科書
U.ファルク・M.ルミナティ・M.シュメーケル 編著/小川浩三・福田誠治・松本尚子監訳『ヨーロッパ史のなかの裁判事例――ケースから学ぶ西洋法制史』ミネルヴァ書房2014年から適宜必要な個所(課題)を配布する。
参考書
下記の図書は,各ケースの時代背景や法制度を理解するために役立つ。その他は,授業のなかで適宜紹介する。
『概説 西洋法制史』
著者: 勝田有恒・山内進・森征一編著
出版社: ミネルヴァ書房・2004年
『キーコンセプト法学史:ローマ法・学識法から西洋法制史を拓く』
著者: 小川浩三・松本尚子・宮坂渉編著
出版社: 2024年