民事執行・保全法

専門職学位課程法学研究科

LWS52900

コース情報

担当教員: 萩澤 達彦

単位数: 2

年度: 2024

学期: 春学期

曜限: 水5

形式: 対面授業

レベル: 700

アクティブラーニング: あり

他学部履修: 不可

評価方法

授業参加

30%

定期試験

定期試験期間中

70%

詳細情報

概要

民事執行及び民事保全制度は,民法などの実体法上の権利を現実社会で実現する手段であるから,実体法の理解と車の両輪の関係にある。特に当事者の意識は,裁判における勝敗だけでなく,そこで得られた結論の実現可能性や,実現に至るまでの時間,労力,費用等を含めた総体の中で形成されるのであるから,この権利実現過程に対する正確な理解がなければ,将来法律実務家になってから,社会の中で私法上の権利を適切に取り扱うことができない。 また,一般の民事訴訟手続が二当事者対立構造を前提として構築されるのに対し,実社会では複数当事者によるパイの奪い合いが行われるのであるから,複数当事者の競合関係に立つ他の当事者との法律関係がいかなる規律をうけるかについて手続的観点から把握することは,権利の実現可能性を理解するうえでもきわめて重要性が高い。 そこでこの講義では,単なる手続の説明にとどまることなく,実体法の理解を前提として,民事執行手続と民事保全手続が実体上の権利を実現するために,どのような助力を与えようとしているのか,その手続の進行中での手続保障や裁判所の後見的機能などがどのように機能しているのか,といった法社会の広がり・ダイナミズムの中で,私法上の権利の実現過程につき理解してもらうことを目的とする。 なお,講義は,なるべく多くの裁判例やさまざまな設例をもとにして,双方向授業(一部質疑応答形式)を通して行われ,単に民事執行法・民事保全法に関する知識の教授だけではなく,事案分析能力,法適用能力,個別具体的な事案に対する問題解決能力を獲得できるように配慮する。 <アクティブ・ラーニングの内容> 授業は,適宜,質疑応答を通して進められる。 <授業の方式> 本授業は,対面方式で実施する。

目標

本講義における目標は,民事執行手続・民事保全手続の基本構造,基本概念を理解することである。その上で,理論上・実務上問題となっている事項を中心に,実際の裁判例や実務での取扱いの検討を通じて,事案分析能力,法適用能力,個別具体的な事案に対する問題解決能力の獲得を目指す。

授業外の学習

民事執行・保全法の前提となる,民法や民事訴訟法についても事前に十分に理解を深めるよう務めること。

所要時間: 190分

スケジュール

  1. 執行・保全の概論・強制履行の意義と方法 導入課題を利用してこの講座の目的を紹介した後,一般債権者が債務名義に基づいて不動産の強制競売を行う場合を概観する。 【到達目標】 (1)民事執行法と民事保全法が規律している内容を理解できる。 (2)債務不履行に対する対処として,損害賠償請求の他に,強制履行の方法があることを理解できる。
  2. 仮差押え・差押えの意義 差押の効力とその範囲について解説し,私権の実現過程における手続の役割を考察する。 【到達目標】 (1)差押の意義とその効力について理解できる。 (2)差押に先行する仮差押の必要性とその効力について理解できる。
  3. 執行機関と動産執行・債権執行の基本構造 まず,執行機関について概観する。次いで,執行文の種類を理解し,承継執行文の存在から既判力・執行力の拡張を位置付け,訴訟承継との関連付けにおいて仮処分の必要性を理解する。 【到達目標】 (1)執行機関の種類と各機関の役割を理解できる。 (2)執行文の種類とその機能について理解できる。 (3)訴訟承継制度の下での仮処分の必要性について理解できる。
  4. 不動産等の引渡し,明渡しの強制執行,動産の引渡の強制執行,意思表示義務の執行 不動産等の引渡し,明渡しの強制執行,動産の引渡の強制執行,意思表示義務の執行を概観する。 【到達目標】 (1)よく訴訟になる類型ごとの強制執行のしくみを理解できる。 (2)基本的人権の尊重と強制執行の実効性とのトレードオフ関係を理解できる。
  5. 債務名義の意義と機能 債務名義の意義と機能を概観する。 【到達目標】 (1)判断機関と執行機関の役割分担の観点から債務名義を理解できる。 (2)債務名義の種類を理解できる。特に,執行証書についての問題点を理解できる。
  6. 執行力の主観的範囲,執行文の種類,執行文付与に関する救済 執行力の主観的範囲,執行文の種類,執行文付与に関する救済につき概観する。 【到達目標】 (1)執行力の主観的範囲について,既判力の主観的範囲と比較しながら,理解する。 (2)執行文の種類について理解できる。 (3)執行文付与に関する救済手続きについて理解できる。
  7. 担保権の実行の概要(不動産担保競売と担保不動産収益執行を中心として) 不動産担保競売と担保不動産収益執行を中心として,担保権の実行につき概観する。 【到達目標】 (1)担保権実行開始文書について理解できる。 (2)強制執行と担保権実行の違いについて理解できる。 (3)担保不動産収益執行について(賃料債権の物上代位による差し押さえとの違いを踏まえて)理解できる。
  8. 形式的競売,財産開示制度 形式的競売,財産開示制度につき概観する。 【到達目標】 (1)形式的競売制度を理解できる。 (2)財産開示制度の存在意義とその最新の改正立法について理解できる。
  9. 不動産仮差押 不動産仮差押につき概観する。 【到達目標】 (1)不動産仮差押の必要性について理解できる。 (2)不動産仮差押の効力について離解できる。
  10. 係争物仮処分 係争物仮処分の各類型につき概観する。 【到達目標】 (1)係争物仮処分の各類型を理解できる。 (2)係争物仮処分命令の効力について理解できる。
  11. 仮の地位を定める仮処分 仮の地位を定める仮処分につき概観する。 【到達目標】 (1)仮の地位仮処分の必要性と多様性を理解できる。 (2)仮の地位仮処分の発令要件について理解できる。
  12. 民事保全解放金・民事保全手続に要する担保・費用,民事保全における不服申立 民事保全解放金・民事保全手続に要する担保・費用,民事保全における不服申立や取消手続につき概観する。 【到達目標】 (1)民事保全解放金の効果について理解できる。 (2)民事保全手続に要する費用・担保や担保の取り戻し手続を理解できる。 (3)民事保全における不服申立や取消手続を理解できる。
  13. 不動産強制競売・担保不動産競売による売却手続の諸問題 不動産強制競売・担保不動産競売による売却手続に関する実務上の問題を取り上げ検討する。 【到達目標】 (1)現況調査・評価・物件明細書の作成について理解できる。 (2)売却基準価額・買受可能価額について理解できる。 (3)引渡命令の意義・要件・効果について理解できる。
  14. 不動産強制競売・担保不動産競売による売却の効果・配当手続・不服申立 不動産強制競売・担保不動産競売による売却の効果,売得金の配当手続,不服申立手続について概観する。 【到達目標】 (1)不動産強制競売と担保不動産競売による売却の効果の違いについて理解できる。 (2)配当手続とそれに関する不服申立について理解できる。 (3)不動産強制競売と担保不動産競売についての不服申立て手続について理解できる。
  15. 定期試験 上記の到達度を最後に確認するため,期末試験(試験時間2時間)を実施する。

教科書

講義は事前に配布したPDFファイルを基にして行うので,特にテキストを指定しない。なお,講義は通常の体系と異なる順序で実施されるため,下記掲載の最初の参考書を適宜参照することを推奨する。なお,参考書に上げている最後の2つの参考書は,裁判所のWebの「民事弁護教官室コーナー」でPDFファイルで公開されているものであり,民事執行・保全法に親しむために読むことをお薦めする。

    参考書

    • 民事執行・保全法[第6版]

      著者: 上原敏夫・長谷部由起子・山本和彦

      出版社: 有斐閣・2020

    • 民事弁護実務の基礎 ~シナリオ民事保全・執行~

      著者: 司法研所民事弁護官室

      出版社: https://www.courts.go.jp/saikosai/sihokensyujo/sihosyusyu/syusyugaiyou/minjibengokyoukan/index.html

    • 民事弁護実務の基礎 ~シナリオ民事保全・執行~ 資料編

      著者: 司法研所民事弁護官室

      出版社: https://www.courts.go.jp/saikosai/sihokensyujo/sihosyusyu/syusyugaiyou/minjibengokyoukan/index.html

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