経済法 I
専門職学位課程法学研究科
LWS52400
コース情報
担当教員: 楠 茂樹
単位数: 2
年度: 2024
学期: 春学期
曜限: 月4
形式: 対面授業
レベル: 700
アクティブラーニング: あり
他学部履修: 不可
評価方法
授業参加
30%
レポート
70%
その他
法科大学院の成績評価基本原則による。
0%
詳細情報
概要
「経済法Ⅰ」では,独占禁止法の全般的解説を行う。具体的には,(1)不当な取引制限,(2)私的独占,(3)不公正な取引方法,(4)反競争的な企業結合,(5)事業者団体の反競争的行為,の禁止規定の5つの柱,そして(6)適用除外規定,(7)公正取引委員会の組織,(8)行政処分,(9)刑事制裁,(10)民事救済等を扱う。 授業は講義形式で行われるが,受講生とのやりとりも重視する。担当教員から指示された文献,資料等の事前の読み込み,更には十分な復習が求められる。
目標
各回の到達目標を参照。
授業外の学習
十分な予習,復習が必要である。 なお,公正取引委員会のHPは常時チェックすること。 (http://www.jftc.go.jp) 指示・配布された教材,資料を読み込みつつ,十分な予習,復習(各3時間程度)が求められる。 ・質問は授業後の休み時間に受け付ける,必要があれば別途面談の時間を設ける。
所要時間: 5時間
スケジュール
- 第1回 〔授業内容〕 独占禁止法の基礎Ⅰ:目的・基本構造 独占禁止法の全体像を解説する。具体的には,(1)法目的(独占禁止法1条にいう「公正且つ自由な競争」「一般消費者の利益」等),(2)禁止規定の体系・構造を内容とする(その歴史的変遷や比較法的な考察にも触れる)。 〔到達目標〕 ○独占禁止法の全体像をつかむ ○法目的としての(公正かつ自由な)競争の維持,促進の意味を理解する ○歴史的な変遷を理解し,競争を基調とした経済体制を支える経済憲法としての独占禁止法の性格を理解する
- 第2回 〔授業内容〕 独占禁止法の基礎ⅠⅠ:基礎概念 独占禁止法2条各項に定める,「事業者」「事業者団体」「競争」「競争を実質的に制限する」「公正な競争を阻害するおそれ」「公共の利益に反して」といった基礎概念について解説する。 第2回 〔授業内容〕 独占禁止法の基礎ⅠⅠ:基礎概念 独占禁止法2条各項に定める,「事業者」「事業者団体」「競争」「競争を実質的に制限する」「公正な競争を阻害するおそれ」「公共の利益に反して」といった基礎概念について解説する。 〔到達目標〕 ○主体概念である事業者と事業者団体を理解する。 ○独占禁止法上の競争概念の特殊性と実質的競争制限の意味を理解する。 ○公共の利益概念に対する判例(独自の意味を付与)と通説(存在意義を否定)の違いを理解する。
- 第3回 〔授業内容〕 禁止規定Ⅰ:私的独占Ⅰ 「私的独占」規制(3条前段)について解説する。「私的独占」規制の重要な違反要件たる「支配」「排除」の解説,効率性に基づく排除とそれ以外の排除の区別,見極め方等の理論とコツの解説に重点を置く。 〔到達目標〕 ○独占と私的独占の意味の違いを理解する。 ○効率性に基づく排除の扱いについて理解する。 ○支配概念の理解とその射程について理解する。
- 第4回 〔授業内容〕 禁止規定ⅠⅠ:私的独占II 私的独占規制違反の具体的ケースを通じて,要件の意味と射程について改めて確認し,実践的な要件当てはめのトレーニングを行う。具体的には,パラマウントベッド事件,東洋製罐事件,パチンコパテントプール事件等を扱う。 〔到達目標〕 ○具体的事件を通じて私的独占規制のイメージを高める。 ○排除型と支配型が混在するケースの特徴を知る。
- 第5回 [授業内容] 禁止規定ⅠⅠⅠ:不当な取引制限Ⅰ 「不当な取引制限」規制(3条後段)について解説する。「不当な取引制限」規制の重要な違反要件たる「共同性」「相互拘束」の解説に重点を置く。また,「不当な取引制限」の典型例である入札談合の背景となる公共調達制度についても解説する。 〔到達目標〕 ○不当な取引制限規制の各要件の理解を深める。 ○入札談合事件の要件の当てはめにおける特徴を知る。
- 第6回 〔授業内容〕 禁止規定ⅠⅤ:不当な取引制限II 不当な取引制限規制のうち,公正取引委員会の指針や相談事例を素材として,いわゆる「ハードコアカルテル」「非ハードコアカルテル」といわれる類型の区別,後者の独占禁止法の適用のあり方を解説する。 〔到達目標〕 ○非ハードコアカルテルの意味を理解する。 ○正当化のための要件選択と事案処理のコツを知る。
- 第7回 〔授業内容〕 禁止規定Ⅴ:不公正な取引方法Ⅰ 「不公正な取引方法」規制(19条)について解説する。共通の要件としての公正競争阻害性と課徴金が課される類型(競争者間での共同ボイコット(供給拒絶型),差別対価,不当廉売,再販売価格維持,優越的地位濫用)の解説を行う。 〔到達目標〕 ○公正競争阻害性と実質的競争制限の違いを理解する。 ○競争者間での共同の取引拒絶とそれ以外の取引拒絶の競争への影響の違いを理解する。 ○差別対価と不当廉売の異同を理解する。 ○再販売価格維持におけるブランド内競争とブランド間競争の扱い方をマスターする。 ○優越的地位の濫用における優越性の認定の仕方を理解する ○課徴金の対象となる不当廉売とそれ以外の不当廉売との違いを理解する。
- 第8回 〔授業内容〕 禁止規定ⅤⅠ:不公正な取引方法II 前回に引き続き,「不公正な取引方法」規制について解説する(課徴金が課されない類型を扱う)。同時に独占禁止法の特例法である下請法および(消費者庁に移管されたが独占禁止法に密接に関連する)景表法についても解説する。 〔到達目標〕 ○抱き合わせと優越的地位の濫用の切り分け方をマスターする。 ○拘束条件付取引の諸類型を理解する。 ○一般条項的な意味合いの強い取引妨害規制の使い方を理解する。 ○特例法の趣旨と実務を知る。
- 第9回 〔授業内容〕 禁止規定VII:企業結合Ⅰ 合併等企業結合規制(第4章)について,公正取引委員会の企業結合ガイドラインに沿って解説する。とりわけ,市場画定問題,反競争的効果(問題解消措置を含む)の認定問題に重点を置く。 〔到達目標〕 ○市場の適切な画定の仕方を理解する ○反競争的効果の認定を水平型,垂直型各々に対して単独によるそれと協調関係によるそれの認定を各々できるようにする
- 第10回 〔授業内容〕 禁止規定VIII:企業結合II 企業結合規制について,(公正取引委員会の相談事例を中心に)具体的な事例(とりわけ最近の事例)を通じて理解を深める(ガイドラインを参照しながら確認し,自ら使いこなせるようにする)。 〔到達目標〕 ○ガイドラインの応用ができるようにする。 ○問題解消措置の実例に多く触れ,実務的な素養を身に付ける。
- 第11回 〔授業内容〕 禁止規定IX:事業者団体規制 事業者団体規制(8条)について,事例の積み重ねが多い8条1号,5号を中心に解説する。事業者による反競争的行為と事業者団体によるそれとの異同について理解を深める。 〔到達目標〕 ○事業者団体と構成事業者の関係について理解する。 ○事業者団体が独占禁止法上「事業者」として扱われるケースを理解する。 ○できる限り多くの事例に触れ,自ら事案の処理ができるようにする。
- 第12回 〔授業内容〕 適用除外: 独占禁止法上の適用除外規定とその解釈について触れる。主として,知的財産権の行使についての規定(関連する知財高裁判決)及び書籍等再販売価格維持についての規定を扱う。 〔到達目標〕 ○知的財産絡みだからといって独占禁止法上特殊な理解をする必要がないことをしっかりと理解する。 ○独占禁止法21条の論点の意味を理解する。 ○書籍再販規定の射程(電子書籍等の問題)と立法論を知る。
- 第13回 〔授業内容〕 法執行I: 公正取引委員会による行政処分を扱う。同委員会による調査から抗告訴訟までの手続,排除措置命令に関連する論点(違反行為終了後の排除措置命令の可否,その条件等),課徴金制度,リーニエンシー制度(課徴金減免制度)の内容と諸論点について触れる。 〔到達目標〕 ○行政処分の手続の流れを,関連条文を参照しつつイメージできるようにする。 ○違反行為終了後の排除措置命令の可否が問われた,郵便区分機事件最高裁判決を読みこなせるようにする。 ○課徴金制度の趣旨と歴史的変遷を理解できるようにする。 ○具体的な適用算定率のイメージをつかみ,条文を参照できるようにする。 ○リーニエンシー制度の適用を自らシミュレートできるようにする。
- 第14回 〔授業内容〕 法執行II: 独占禁止法上の刑事制裁,民事救済(損害賠償,差止)について概観する。具体的には,両罰規定,三罰規定,課徴金との調整規定,リーニエンシー適用時の刑事告発の実務,独占禁止法25条訴訟と民法709条訴訟の違い,損害の存在の証明,具体的な賠償額の算定,差止が認められた場合の具体的な命令の内容等について触れる。 〔到達目標〕 ○行政処分と刑事制裁の関係について理解する。 ○両罰規定の法趣旨と法論理,その他刑事法上の論点を理解する。 ○25条訴訟と709条訴訟の違いを理解する。 ○鶴岡灯油事件最高裁判決を読みこなし,損害の証明のあり方について理解する。 ○差止請求に関わる諸論点を理解する。
- 期末レポート 〔到達目標〕 ○理解が独禁法全体に及び,各禁止規定,執行規定に係る個別の論点について十分答えられるかを確認する。
教科書
オリジナルなレジュメを用意する。 *泉水文雄『独占禁止法』有斐閣(2022)をベースとする。 その他,必要な教材は適宜指示する。
参考書
書籍情報はありません。