法哲学
専門職学位課程法学研究科
LWS51700
コース情報
担当教員: 奥田 純一郎
単位数: 2
年度: 2024
学期: 秋学期
曜限: 木4
形式: 対面授業
レベル: 700
アクティブラーニング: なし
他学部履修: 不可
評価方法
授業参加
リアクションペーパー
レポート
その他
期末試験は,レポートでこれに代える。概して成績評価は法科大学院の成績評価基本原則による。
詳細情報
概要
テキストを手がかりに,毎回法哲学の重要なテーマに関する討議を行う。 テキストはロースクールでの法哲学の授業を意識して作られた論文集であり,各論文は現実に起こりうる事例を「ケース」として冒頭に置き,ここから問題点を抽出し,これに答えるというケースブックのスタイルを採る。これは各論文の著者が,抽象性に耽溺することなく現実と切り結ぶことを意図している。 参加者は毎回,テキストの該当部分を読み自身の理解・疑問を明らかにし,これを前提に授業時間には討議を行い,理解を深める。これにより,法学上の諸問題につき根源的に思考する姿勢を習得して欲しい。 質問は授業時間内やオフィスアワーに直接でも良いし,終了後にメール(まてゃムードルのメッセージ機能)を用いても良い。必要があれば,ZOOMでの面談の機会を設ける。
目標
法哲学的な思考様式を身につけ,現行法制度について正義論・法概念論の見地から根本的・批判的に考察する姿勢を身につける。
授業外の学習
予習:当該箇所の論文を読み,自己の見解や疑問点を明晰化する。 復習:授業中の議論を踏まえて自己の見解を深化させ,リアクション・ペーパーを書く。
所要時間: 予習100分・復習90分程度
スケジュール
- ガイダンス――なぜロースクールで「法哲学」を学ぶのか? 科目の全体像の提示と,授業の進行方法,成績評価基準を説明する。同時に実務法学と法哲学の関係につき,担当者の考えを述べる。 〔到達目標〕 ○ 実務法学を学ぶ上での,法哲学の含意を理解する。 ○ リアクション・ペーパーにて志望動機を明示する。
- テキスト・テーマ11 ジェンダーと親密圏――法にとって家族とは何か? 死後懐胎児認知訴訟を素材に,当事者の自己決定では解決できない,暗黙裡に法が課しているジェンダー的負荷を直視し,あるべき家族法の姿を模索する。 〔到達目標〕 ○ 当事者の自己決定が,現状肯定・問題(?)隠蔽に機能する局面を直視する。 ○ 法及び(それを必要とする)人間にとって,家族の持つ意味を見直す。
- テキスト・テーマ12 教育において重要なのは自由か平等か?──日本戦後教育史 旭川学テ訴訟と教育バウチャー制度を素材に,子どもにとっての教育の持つ意味,教育に対する国の関与の在り方を検討する。 〔到達目標〕 ○ 二つの教育権論が,共に陥った前提を批判的に吟味する。 ○ そもそも,法において教育の持つ意味について検討する。
- テキスト・テーマ13 受刑者と犯罪被害者――その声は届くか?誰に? 刑事司法手続(または刑事訴訟法学・刑事政策学)において等閑視されてきた受刑者と犯罪被害者の声を拾い上げる近年の試みを手がかりに,刑事法学全体の再検討を試みる。 〔到達目標〕 ○ 刑事司法手続の「常識」を問い直す。 ○ 被害者や受刑者の位置づけを見直すと同時に,刑事法学の役割と射程を考察する。
- テキスト・テーマ14 臓器売買は何故「悪」なのか? 臓器売買事件を素材に,それを禁止する法的・倫理的基盤の脆弱性,医療における臓器移植自体の意味を問い直し,あるべき医療・生命倫理と法の関係を考察する。 〔到達目標〕 ○ 生命倫理の「常識」への批判的視座を得る。 ○ 法における医療の位置を問い直す。
- テキスト・テーマ6 市場社会と法――対立か相互依存か? 市場における「弱者保護」が適切であるか,そもそも法を用いて国家は,市場に対しいかなる機能を果たすべきかを論じる。 〔到達目標〕 ○ 一見類似する2つの事例への直観的な反応が,何に由来するかを検討する。 ○ 市場と国家のあるべき関係,国家の果たすべき役割を考察する。
- テキスト・テーマ8 良き景観は何故/如何なる権利となりうるか? いわゆる「国立マンション訴訟」を素材に,権利概念への「法と経済学」アプローチを試み,その射程と限界を検討する。 〔到達目標〕 ○ 具体的事例を手がかりに,権利の生成につき検討する。 ○ 「法と経済学」アプローチの長所と短所について考える。
- テキスト・テーマ9 正義に適った税制とは?――課税・徴税が問いかけるもの 国税不服審判事例を素材に,一見テクニカルな租税法学上の理念の法哲学的背景を検討すると同時に,租税によって運営される国家のあるべき姿を考察する。 〔到達目標〕 ○ 租税法学上の理念について理解を深める。 ○ 租税によって運営される国家の,あるべき姿・果たすべき機能を検討する。
- テキスト・テーマ1 法的思考は価値中立的か? ロースクールで自明視されている「法的三段論法」の現実の姿を,同じ水害に対し異なる判断を下した2つの判決を素材に,検討する。 〔到達目標〕 ○ 「法的三段論法」へのアンチテーゼとしての法論理について検討する。 ○ 判決に現れた思考枠組を吟味する。
- テキスト・テーマ2 「人格」とは何か?――歴史的変遷 法の基底にある「法的人格」の在り方を,その思想史的背景を踏まえて検討し,現行法における「法人」の理解を深める。 〔到達目標〕 ○ 法的人格の理解の,歴史的変遷を知る。 ○ 現行法における「法人学説」の技術面にとどまらない含意を理解する。
- テキスト・テーマ3 悪法に従う義務はあるか?――法と道徳 いわゆる「ベルリンの壁」警備兵(壁の射手)による自国民射殺行為を通じて,遵法責務の有無,ひいては法を他の道徳と区別する根拠につき検討する。 〔到達目標〕 ○ 法哲学の古典的課題である「悪法問題」を具体的事例に即して検討する。 ○ 法を,その他の道徳規範と区別する根拠につき考える。
- テキスト・テーマ10 移民を拒む権利は国家にあるか? グローバル・ジャスティスを問う1回目。移民の権利の有無を手がかりに,国境・国籍・居住権の意味を問い直す。 〔到達目標〕 ○ 法学一般における,国内法を自明視する視点を相対化する。 ○ 移民問題を通じて,法学が軽視・排除してきた他者への想像力を培う。
- テキスト・テーマ4 環境難民は何処へ行けばいいのか? グローバル・ジャスティスを問う2回目。温暖化による海面上昇で国土を失った国民の処遇を手がかりに,国際法の基盤の再検討と人権・環境問題の交錯を考える。 〔到達目標〕 ○ 国内法を自明視する視点を相対化すると同時に,国際法の持つ意味とその基盤・限界という,国際法総論的な視点を養う。 ○ 環境問題への視点を吟味する。
- テキスト・テーマ5 社会保障の正義は国境を越えるか? グローバル・ジャスティスを問う3回目。国境を超える貧富の差につき,是正・援助する義務の有無を手がかりに,法の目的としての正義の普遍主義的性格を問う。 〔到達目標〕 ○ 国内法を自明視する視点を相対化すると同時に,国境を超える正義が,これまでなぜ軽視されてきたか,その理由は正当だったかを問う。 ○ 国家の存立基盤,国境の存在意義を問う。
- 期末試験に替わるレポート作成(テキスト・テーマ7) テキスト「テーマ7」を素材に,内容の要約と,それに対する自身の見解を述べたレポートを作成する。 〔到達目標〕 法哲学的な理念について一定の理解ができるとともに,議論の作法や,現状を批判的に見て,それに対する建設的な改善策を提案できる姿勢を培う。ただし,煽情的な文言の羅列,独り善がりな自説の展開,反対説への不当な蔑視を披歴するだけでは高い評価は得られない。反対説を正確に理解し(場合によってはそれを自身の立場から最大限好意的に理解した上で),反対説に立つ論者も理解・受容可能な形で,自説を主張・展開できるかが,評価の一番の基準となる。見解の異なる他者に対し,こうした応答をなしうることは,裁判や立法・行政の場においても有益であろう。またそうしたフォーマルな場ではなくとも,異質な価値観を持つ他者との共存を余儀なくされる現代社会において,不可欠な作法である。
教科書
井上達夫編著『現代法哲学講義(第2版)』に基づいて授業を行うので,受講する場合は必ず入手すること。
『現代法哲学講義(第2版)』
著者: 井上達夫編著
出版社: 信山社出版・2018年
参考書
参考書1は用語集,参考書2及び3はそれぞれの詳しさで法哲学の全体像を描くものである。必要に応じて適宜利用されたい。
『よくわかる法哲学・法思想』
著者: 深田三徳・濱真一郎編著
出版社: ミネルヴァ書房
『法哲学』
著者: 瀧川裕英・宇佐美誠・大屋雄裕
出版社: 有斐閣
『現代法理学』
著者: 田中成明
出版社: 有斐閣