訴訟実務基礎(刑事)

専門職学位課程法学研究科

LWS30501

コース情報

担当教員: 小林 俊彦

単位数: 2

年度: 2024

学期: 秋学期

曜限: 火4

形式: 対面授業

レベル: 700

アクティブラーニング: あり

他学部履修: 不可

評価方法

授業参加

15%

レポート

15%

定期試験

定期試験期間中

70%

その他

上智大学法科大学院の成績評価基本原則による。平常点(30%)と期末試験(70%)を総合して評価を決定する。平常点の内訳は,授業への参加状況及び授業課題への取組み(15%,欠席は減点の評価事由として扱う。),並びにレポート(15%)とする。

30%

詳細情報

概要

刑事訴訟に携わるために有用な実務的専門知識の獲得のほか,具体的事案における問題解決の場面での刑法,刑事訴訟法の理論的法知識が果たす意義・機能の考察や法規範への当てはめを通じて実務への応用力の修得を図るとともに,刑事実務の導入となる基礎的事項に関して学修することを目的とする。法曹三者出身の実務家教員が連携しつつ各自授業を行い,最後に共同担当の授業を行って,検察官,弁護人,裁判官の各視点が十分に理解できるように授業を展開する。 担当教員の役割はおおむね次のとおりである。 小林教授は,検察官としての実務経験を踏まえて,特に捜査活動,終局処分の考え方,公判段階における立証活動について講義・教示する。 角田教授は,刑事弁護人としての実務経験を踏まえて,特に弁護人の法的地位と役割,被疑者段階並びに公判準備及び公判段階の各弁護活動について,講義・教示する。 朝山教授は,刑事裁判官としての実務経験を踏まえて,特に証拠に基づく事実認定の基礎,公判手続において生起する証拠法をはじめとする訴訟法上の問題等について,講義・教示する。 なお,本講義は,概ね毎回,受講生との対話型ディスカッション等のアクティブ・ラーニングの方式を適宜取り入れて実施する。

目標

1)捜査,公判準備及び公判の各段階で生起する手続上の問題について,刑事実務の専門的知識や問題分析ができる実務的思考力の基本を身に付け,検察官,弁護人,裁判官のそれぞれの立場から,そこでの論点等を的確に描き出し,その解決策を説明することができる。 2)刑事手続や刑事司法制度の現状,法改正の動向を理解し,その適正な在り方について考察することができる。

授業外の学習

受講生とのディスカッションによる対話型を中心に授業を行うので,事前に示された研究課題につき,刑事実体法及び刑事手続法の条文解釈,過去の参考裁判例及び刑事実務の現状と問題点などを確認しながら,十分に分析・検討して,授業内で自分の意見が述べられるように準備しておくこと。 授業中に紹介された関連文献や裁判例を参照して,各自で考察をさらに深めること。 課題レポートの内容及び提出については,授業中に指示する。 なお,予習・復習とも毎週授業時間と同程度の時間が必要となるが,授業を活かすためには特に予習の充実が肝要である。

所要時間: 200分程度

スケジュール

  1. 【以下は予定であり,授業計画の1~14回について,適宜,順序を入れ替えて実施する。実施順は開講時に説明する(「上智大学法科大学院教育研究支援システム」の本授業に関する科目欄の記載を必ず参照のこと)。また,授業の進捗や刑事訴訟実務のトピック等によって,各回のテーマ等を変更することもあるので,具体的な実施内容の詳細は,各実施前に告知する。】 捜査段階における検察官の活動(1) 〔授業内容〕(担当:小林) 検察官の捜査の概要,勾留請求前の捜査,勾留請求の要否,勾留請求後の捜査等を講義・教示するとともに,事件記録教材に基づき,捜査の初期段階で検察官が具体的になすべきことを検討する。 〔到達目標〕 ◯検察官の捜査の概要について理解している。 ◯捜査の初期段階における検察官の具体的な活動・役割について理解している。
  2. 捜査段階における検察官の活動(2) 〔授業内容〕(担当:小林) 勾留請求後・勾留延長後の捜査,終局処分の意義・種類等を講義・教示するとともに,事件記録教材に基づき,捜査の中間・終局段階で検察官が具体的になすべきことを検討する。 〔到達目標〕 ◯捜査の中間・終局段階における検察官の具体的な活動・役割について理解している。 ◯検察官による終局処分の意義・内容を理解している。
  3. 捜査段階における検察官の活動(3),公判準備段階における検察官の活動 〔授業内容〕(担当:小林) 終局処分に当たり検討すべき事項,公判手続の概要,第1回公判期日前の準備等を講義・教示するとともに,事件記録教材に基づき,捜査の終局段階及び公判準備段階で検察官が具体的になすべきことを検討する。 〔到達目標〕 ◯検察官が終局処分に当たり検討すべき事項を説明することができる。 ◯公判準備段階における検察官の具体的な活動・役割について理解している。
  4. 公判段階における検察官の活動(1) 〔授業内容〕(担当:小林) 証人尋問の方法,証拠の信用性の評価及び証拠から事実を認定する方法等を講義・教示する。 〔到達目標〕 〇証人尋問の方法を説明することができる。 ◯客観証拠及び供述証拠の特徴,供述証拠の信用性の評価の方法,証拠から事実を認定する方法を説明することができる。
  5. 公判段階における検察官の活動(2),公判前整理手続 〔授業内容〕(担当:小林) 検察官の冒頭陳述及び論告の意義及び在り方,公判前整理手続の証拠開示制度などを講義・教示する。 〔到達目標〕 ◯検察官の冒頭陳述及び論告において,どのような事項をどのように主張するべきかを説明することができる。 〇公判前整理手続の証拠開示制度を説明することができる。
  6. 弁護人とは何か,捜査段階における弁護人の活動 〔授業内容〕(担当:角田) 弁護人の法的地位・権限・職務内容,被疑者国選弁護制度等を概観した上で,捜査段階の弁護活動として,弁護人や弁護人となろうとする者の被疑者に対する事情聴取及び接見交通権の行使,逮捕・勾留等の強制捜査に関する対応その他について,具体的な事例等を用いて,討議・検討する。また,適宜,DVD教材等を用いて,具体的事案における捜査弁護の在り方を討議する。 〔到達目標〕 ◯弁護人選任権の憲法上の保障と刑事弁護の歴史的・今日的意義を理解している。 ◯被疑者段階における被疑者の防御権と弁護人の役割・権限を具体的に説明することができる。 ◯憲法上の権利を実質化する接見交通権の意義,弁護人と被疑者とのコミュニケーションの重要性,接見指定の要件及び接見制限への弁護人の対応その他接見交通権に関する今日的な諸課題を理解している。 ◯違法な逮捕・勾留等の強制捜査への弁護人の対応,被疑者等の身体拘束からの解放手続を理解している。 ◯具体的な事案に応じた捜査段階の適切な弁護方針とそれに基づく調査等の活動,適正な終局処分を得るための活動について考察することができる。
  7. 起訴後,公判準備段階における弁護人の活動 〔授業内容〕(担当:角田) 第1回公判期日前の弁護活動として,特に保釈及び公判前の準備活動について,具体的な事例等を用いて,討議・検討する。 〔到達目標〕 ◯被告人を身体拘束から解放し,防御権の行使として十分な公判準備を可能にするため,適切に保釈請求を行うことの重要性と保釈手続を理解している。 ◯起訴状及び検察官の取調べ請求予定証拠の検討,事情聴取や調査,弁護方針の策定(ケース・セオリーの構築を含む。)及び弁護人の立証計画などに必要な基礎的知識と素養を身につけている。 ◯弁護人の検察官に対する証拠開示請求の必要性,方法などについて理解している。 ◯弁護人の証拠の収集手段及び証拠作成の重要性について理解している。 ◯公判前整理手続の意義と特徴を踏まえ,適切に対処するための活動を考察することができる。
  8. 公判段階における弁護人の活動 〔授業内容〕(担当:角田) 公判段階における弁護活動として,重要なポイントについて刑事裁判の進行段階を意識しながら,具体的な事例等を用いて,討議・検討する。 〔到達目標〕 ◯刑事訴訟の公判手続の特徴を理解している。 ◯起訴状に対する求釈明や被告事件に対する陳述等の冒頭手続における弁護人の役割を理解している。 ◯証拠法の基本原則を踏まえ,証拠能力の要件,証拠調手続の基本を理解し,検察官の取調べ請求証拠に対する的確な意見の選択,冒頭陳述の意義,弁護人の立証活動等を具体的に考察することができる。 ◯証人尋問,被告人質問の準備・方法等の基本的事項について理解している。 ◯最終弁論の意義や機能について説明することができる。
  9. 公判手続の実際 〔授業内容〕(担当:朝山) テキストの参考記録及びそのDVD(裁判員裁判事件)を基にして,裁判所を中心にした公訴提起後における手続がどのように進行するかを検討する。特に証拠等関係カードの読み方を学ぶ。 〔到達目標〕 ◯公訴提起から判決までの手続の流れを理解している。 ◯冒頭手続の役割・意義を説明することができる。 ◯証拠調べ手続に関して,冒頭陳述の意義を説明することができる。 ◯証拠調べの類型に応じて証拠能力が与えられる要件を理解し,具体例に即して,その証拠の取調べのために必要な訴訟活動(立証趣旨の説明,証拠意見の在り方,証拠採否の判断等),証拠の取調べ方法を説明することができる。 ◯証人尋問における罪体(直接事実,間接事実)立証,信用性の補強・弾劾,書証の証拠能力獲得といった具体的目的に照らし,具体例に即して,尋問すべき事項について説明することができる。 ◯交互尋問のルールを定めた法令の根拠を理解し,具体例に即して,交互尋問のルールに基づいた尋問方法及び異議申立について,説明することができる。 ◯被害者に対する配慮及び被害者参加等の証人尋問におけるその他の配慮について,被告人の権利保障との関係を踏まえて説明することができる。 ◯伝聞法則の問題が,実際の裁判,手続の中でどのように扱われているかを理解している。 ◯証拠調べを実施していく過程で,実体面での心証形成がどのようにされるかを理解している。
  10. 公判前整理手続の実際 〔授業内容〕(担当:朝山) 引き続き上記参考記録を用いて,公判前整理手続の実際を学ぶ。 〔到達目標〕 ◯第1回公判期日前の公判準備の役割,審理計画の重要性等について説明することができる。 ◯通常の刑事訴訟手続と裁判員裁判制度による手続及び公判前整理手続に付された事件の手続の相違を説明することができる。 ◯公判前整理手続において実際に行われる当事者及び裁判所の活動を理解している。 ◯公判前整理手続が,被告人の防御権に配慮しながら効率的で迅速な証拠調べを実現するための事前準備手続であることの立法趣旨を説明することができる。 ◯争点を明示し,争点及び証拠を整理することの意義・目的の重要性を理解し,具体例に即して説明することができる。 ◯公判前整理手続において行われる各種手続(証明予定事実記載書面の提出・送付,証拠開示,証拠請求等)を理解し,具体例に即して,それぞれの立場からの法的対応を検討し,検討内容を説明することができる。
  11. 公判段階で生起する問題とその解決(1) 〔授業内容〕(担当:朝山) 第11回と第12回は,検察官の立証段階,弁護人の立証段階において生起する公判手続上の問題について,検討を加える。 〔到達目標〕 ◯記録に基づき,公判手続全体がどのように進行したか,説明することができる。 ◯検察官立証段階,弁護人立証段階で生起する問題について理解している。 ◯訴因どおりの事実が認定できない場合における当事者,裁判所の採るべき措置について理解している。
  12. 公判段階で生起する問題とその解決(2) 〔授業内容〕(担当:朝山) 上記第11回記載のとおり。 〔到達目標〕 ◯各証拠は,どういう手続を経て,証拠調べがされたか,説明することができる。 ◯弁護人が不同意とした検察官請求証拠(供述調書,実況見分調書,鑑定書等)は,どのような手続を経て,どのような場合に証拠能力が付与されるか,説明することができる。
  13. 刑事裁判における事実認定,まとめ 〔授業内容〕(担当:朝山) 実際の事件を基にしたプリント教材を使用し,事実認定上問題となる点について,あらかじめ起案(簡単なメモ程度のもの)をさせることとし,その講評を行う。併せて,殺意や近接所持を例にとりつつ,事実認定の基本的な手法を学ぶ。 〔到達目標〕 ◯刑事司法における証拠裁判主義及び主要事実の挙証責任が検察官にあること(「疑わしいときは被告人の利益に」)の意義を説明することができる。 ◯事実認定に関する基本的概念(要証事実と間接事実,直接証拠と間接証拠,証拠の信用性と証拠の証明力,実質証拠と補助証拠等)を理解したうえ,証拠から事実を推認する過程を具体例に即して説明することができる。 ◯事実認定における証拠の構造(事実認定の骨組み)の重要性を理解し,具体例に即して,その内容を説明することができる。 ◯事実認定上の問題について,心証形成のプロセス等を文章にして表現することができる。 ◯殺意認定の場合にあっても,客観的証拠の重要性を具体的に指摘することができる。 ◯当該事件の個々の証拠の信用性・証拠価値について具体的に説明することができる。
  14. 公判前整理手続及び公判における重要問題 〔授業内容〕(担当:3教員共同) 裁判員裁判を念頭におきつつ,公判前整理手続を素材として,そこでの争点及び証拠の整理や証拠開示の仕方やその重要性を改めて教示し理解を深めるとともに,手続における検察官,弁護人,裁判所のそれぞれの役割について,具体的に説明する。 〔到達目標〕 ◯公判前整理手続における争点及び証拠の整理について,実際にどのようなことが行われるのか,理解し,説明することができる。 ◯従来の事前準備手続と公判前整理手続の違いについて,例を挙げて説明することができる。 ◯公判前整理手続における証拠開示について,条文に則しつつ,具体的例を挙げて説明することができる。
  15. 期末試験 刑事訴訟法についての理論的知識等を身につけていることを前提に,それを実務上の諸問題に応用し,展開する力があるかを問う。 〔到達目標〕 ◯捜査,公判準備及び公判の各段階で生起する手続上の問題について,検察官,弁護人,裁判官のそれぞれの立場から,そこでの論点等を的確に描き出し,その解決策を説明することができる。 ◯刑事手続の現状を理解し,その適正な在り方について考察することができる。
  16. 授業期間中に提示した課題について,レポートを提出する。

教科書

司法研修所刑事裁判教官室編『プラクティス刑事裁判(平成30年版)』(法曹会)。このほか,授業では,実際の刑事事件記録を加工した記録教材を使用することがある。

    参考書

    司法研修所検察教官室編『検察講義案(平成30年版)』(法曹会),岡慎一=神山啓史『刑事弁護の基礎知識(第2版)』(有斐閣)又は日本弁護士連合会刑事調査室編『起訴前・公判前整理・裁判員裁判の弁護実務』(日本評論社),司法研修所監修『刑事第一審公判手続の概要-参考記録に基づいて(平成21年版)』(法曹会)。このほか,各教員が授業の中で適宜指示する。

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