刑事訴訟法B

専門職学位課程法学研究科

LWS21402

コース情報

担当教員: 岩下 雅充

単位数: 1

年度: 2024

学期: 秋学期

曜限: 金3

形式: 対面授業

レベル: 700

アクティブラーニング: なし

他学部履修: 不可

評価方法

授業参加

10%

定期試験

定期試験期間中

70%

小テスト等

20%

その他

《 補足の説明 》 【 「上智法科大学院成績評価基本原則」について 】 それぞれの評価要素およびその割合に関しては,「上智法科大学院成績評価基本原則」を参照する。なお,個々の受講者の実力を確認するという目的のもとに,小テストが実施される。 【 「授業参加」の評価要素(10.0%)について 】 その内容については,第1回の授業で説明する。なお,授業の欠席については,これを減点の対象とする。

10%

詳細情報

概要

刑事訴訟法における証拠の領域について知識・理解の具体化・深化をはかるのとともに,この領域にまつわる重要な論点をとり上げて具体的に解説・検討することによって,刑事訴訟法の解釈・適用に関する法的な思考力・分析力と論述力を高める。この授業は,「刑事訴訟法基礎Ⅰ」・「刑事訴訟法基礎Ⅱ」や学士課程の刑事訴訟法の科目において得た基本の知識・理解をもとに,あるいは,刑事訴訟法に関する自学自習の成果をもとに,応用・展開の可能性を高めるために,これに必要な学びにとり組む場と位置づけられる。 この授業の進行は,規定の内容・趣旨にかかる判例・学説のとらえ方やその背景となる考え方の意義・射程などに立ち入って,法の解釈・適用に関する知識・理解を具体化・深化させたうえで,架空の事例や判例の事案を用いた解説・検討によって,解釈・適用のあり方を探るというながれになる。いずれの場面でも質疑応答の機会が設けられるため,解答や発言に困らないように準備したうえで授業にのぞむことが必要となる。

目標

この授業のねらいは,刑事訴訟法(証拠の領域)においてさまざまな事例・事案の問題に適切に対応できるような能力を獲得するというところにある。その到達点は,問題の解決に必要な法の解釈に慣熟することと,正しく選択・定立した法の精確な適用を具体的に会得するということにある。 このような能力の獲得に向けて,判例・学説に対する精密な理解をもとに,問題の所在を的確に把握したうえで,その解決の道筋を種々の観点から深掘りして示せるように,必要となる法的な思考力・分析力と論述力を高めてもらう。そのためには,規定の内容・趣旨ないし背景となる考え方から問題の解決に必要な判断のわく組みを合理的に導出する過程や,具体的な問題の解決にとって重要な事実の見極めおよびその事実に対する意味づけの言語化など,解釈・適用の作法に関連することがらを修得しなければならない。

授業外の学習

1回の授業において扱われるテーマ・論点は多岐にわたるため,予習によってそれぞれのテーマ・論点の大筋を把握することが不可欠となる。また,授業において理解しきれなかった事項をそのつどの復習によってフォローするということも必要となる。とくに,授業において用いられる架空の事例や判例の事案をもとに自学自習することは,授業の前にも授業の後にも欠かせない。

所要時間: 授業1回あたり190分以上

スケジュール

  1. 【 証拠法 : 総説 】 証拠法の意義 / 証拠能力と証明力 / 厳格な証明と自由な証明 / 証明の必要 / 自由心証主義 / 証明の水準 / 挙証責任と推定 / 証拠の意義・種類 / 関連性の意義 / 悪性格や前科・類似事実の立証 / 科学的証拠の許容性(ポリグラフ検査やDNA鑑定など) 《到達目標》 *証拠から事実を認定する過程について,主要事実・間接事実・直接証拠・間接証拠等の概念の意味をふまえながら説明することができる。 *実質証拠と補助証拠の概念について理解している。 *供述証拠と非供述証拠の概念について理解している。 *証人,証拠物,証拠書類,証拠物としての書面の概念について理解している。 *証拠能力と証明力の概念について理解している。 *証拠能力が否定される根拠について説明することができる。 *証拠裁判主義について,条文上の根拠を示した上,その意義を説明することができる。 *厳格な証明と自由な証明の概念について,主要な考え方をふまえて説明することができる。 *厳格な証明が必要な事実の範囲について,主要な考え方をふまえて説明することができる。 *自由心証主義について,条文上の根拠を示した上,法定証拠主義と対比しながら,その意義を説明することができる。 *自由心証主義の例外について,具体例を挙げて説明することができる。 *関連性の概念について理解している。 *悪性格立証の禁止の趣旨について説明することができる。 *公訴事実と類似する被告人の過去の行為(同種前科,同種余罪など)を立証することの可否について,判例の立場をふまえ,具体例を挙げて説明することができる。 *科学的証拠に特有な問題について説明することができる。 *科学的証拠の証拠能力の判断基準について,判例の立場をふまえ,具体例(例えば,DNA型鑑定,ポリグラフ検査,臭気選別など)を挙げて説明することができる。 *刑事裁判において何が証明の対象となる事実であるかを理解している。 *裁判所による認定の対象とされる事実であっても,例外的に証明を必要としない場合があることを理解している。 *公知の事実の内容と,それが証明を要しない理由について説明することができる。 *裁判所に顕著な事実の証明の必要性について説明することができる。 *刑事裁判における事実の認定のために必要とされる心証の程度について理解している。 *挙証責任の意味を理解している。 *検察官が挙証責任を負う事実の範囲について理解している。 *証拠提出責任,争点形成責任の意味を理解している。 *推定規定の意義について,主要な考え方を理解している。 *具体的な推定規定について,それが合理性を有するか否かを説明することができる。 *被告人に挙証責任を転換することを肯定する見解,否定する見解それぞれの根拠を理解している。 *挙証責任の転換を肯定する見解に立った場合に,それが許容される要件について理解し,具体的な規定について,その要件に合致しているかどうかを説明することができる。
  2. 【 伝聞証拠(1) 】 伝聞法則の意義・根拠 / 伝聞と非伝聞 《到達目標》 *供述証拠の性質と伝聞法則の趣旨について,条文に則して説明することができる。 *伝聞法則と憲法との関係について,主要な考え方をふまえて説明することができる。 *伝聞証拠にあたるか否かの区別とその根拠について,具体例を挙げながら説明することができる。
  3. 【 伝聞証拠(2) 】 伝聞例外の意義 / 被告人以外の者の供述書・供述録取書 / 被告人の供述書・供述録取書 / いわゆる特信文書 / 伝聞供述 《到達目標》 *伝聞例外が認められる根拠について,それぞれの規定に則して説明することができる。 *供述書と供述録取書の違い及び供述録取書における署名押印の意義を理解している。 *321条1項3号の要件について理解している。 *321条1項1号の対象となる書面の種類と同号の要件について理解している。 *321条1項2号の対象となる書面の種類と同号の要件について理解している。 *321条1項2号の合憲性について,判例の立場及び主要な考え方をふまえて説明することができる。 *321条1項各号の供述不能の要件について,判例の立場及び主要な考え方をふまえ,具体的事例に即して説明することができる。 *321条1項2号後段の相反性の要件について,具体的事例に即して説明することができる。 *321条1項2号後段の特信性の要件の判断方法及び基準について,具体的事例に即して説明することができる。 *321条1項3号の特信性の要件の判断方法及び基準について,具体的事例に即して説明することができる。 *321条2項の対象となる書面の種類について理解している。 *321条3項及び4項の要件を理解し,その対象となる書面の種類について,判例の立場及び主要な考え方をふまえて説明することができる。 *322条1項の対象となる書面の種類と同項の要件について理解している。 *322条2項の対象となる書面の種類と同項の要件について理解している。 *323条各号の対象となる書面の種類について理解している。 *伝聞供述の証拠能力の要件について理解している。 *現場写真等の証拠能力について,判例の立場及び主要な考え方をふまえて説明することができる。 *供述録音等の証拠能力の要件について理解している。 *犯行(被害)再現写真等の証拠能力について,その使用の目的に応じた要件の違いを理解している。
  4. 【 伝聞証拠(3) 】 記録物と伝聞法則 / 再伝聞 / 同意書面・合意書面 / 証明力を争うための証拠 《到達目標》 *再伝聞証拠の証拠能力について,判例の立場及び主要な考え方をふまえて説明することができる。 *325条の任意性の調査の意義について,主要な考え方をふまえて説明することができる。 *326条1項の同意の性質について,主要な考え方をふまえて説明することができる。 *326条1項の同意の手続について理解している。 *326条2項の同意の擬制がなされる場合について理解している。 *327条の書面の性質について理解している。 *328条により証拠能力を認められる証拠の種類について,判例の立場及び主要な考え方をふまえて説明することができる。 *回復証拠・増強証拠の証拠能力について,主要な考え方をふまえて説明することができる。
  5. 【 自白の証拠能力 】 自白の意義 / 自白法則の意義・根拠 / 排除される自白の類型 / 任意性の立証 / 取調べの録音・録画と記録の証拠調べ 《到達目標》 *自白の意義及び類似概念(不利益事実の承認,有罪であることの自認,有罪である旨の陳述)との異同について説明することができる。 *自白法則の趣旨について,憲法及び刑事訴訟法の条文に則し,また判例の立場及び主要な考え方をふまえて説明することができる。 *利益な取扱いの約束又は暗示を契機としてなされた自白の証拠能力について,判例の立場及び主要な考え方をふまえたうえで,具体的事例に即して説明することができる。 *偽計を用い被疑者を錯誤に陥れることによって獲得された自白の証拠能力について,判例の立場及び主要な考え方をふまえたうえで,具体的事例に即して説明することができる。 *違法な手続(取調べ,身体拘束,接見制限等)で獲得された自白の証拠能力について,判例の立場及び主要な考え方をふまえたうえで,具体的事例に即して説明することができる。 *自白の任意性を立証すべき主体(挙証責任の所在)及び立証方法(被告人質問,捜査官の証人尋問,取調べ状況報告書等の取調べなど)について説明することができる。 *取調べの状況を録音・録画した記録媒体の証拠調べに関して,証拠法上の問題について,条文に則して説明することができる。
  6. 【 自白の証明力 / 共同被告人の供述に関する問題 】 自白の補強法則-意義・根拠 / 自白の補強法則-補強の範囲など / 公判廷の内外における共同被告人の供述の取り扱い 《到達目標》 *自白に補強証拠を必要とする理由について理解している。 *公判廷の自白にも補強証拠が必要とされるかについて,判例の立場及び主要な考え方をふまえて,憲法と刑訴法の規定の異同を説明することができる。 *補強証拠になり得る証拠(補強証拠適格)について,補強法則の趣旨をふまえて,説明することができる。 *補強証拠が必要とされる事実の範囲について,判例の立場及び主要な考え方をふまえ,具体的事案に即して説明することができる。 *補強証拠に必要とされる証明力の程度について,判例の立場及び主要な考え方をふまえて説明することができる。 *共犯者の供述(自白)に補強証拠を要するかについて,判例の立場及び主要な考え方を理解している。
  7. 【 証拠の禁止 】 違法収集証拠の排除法則-意義・根拠 / 違法収集証拠の排除の基準 / 違法収集証拠から派生した証拠の排除 / 違法収集証拠の排除の申立て / 不任意自白と違法収集証拠の排除 / 権利の侵害と証拠の禁止 《到達目標》 *違法収集証拠の証拠能力が問題とされる理由について説明することができる。 *違法収集証拠の証拠能力が否定される実質的な根拠について,憲法及び刑訴法の条文と関連付けて説明することができる。 *違法収集証拠の証拠能力が否定される要件と,それに該当するか否かを判断する際の考慮要素について,判例の立場及び主要な考え方をふまえ,具体的事例に即して説明することができる。 *証拠を獲得した直接の手続に先行する手続が違法であった場合に,当該証拠の証拠能力を判断する枠組みについて,判例の立場及び主要な考え方をふまえ,具体的事例に即して説明することができる。 *証拠能力のない自白に基づいて発見又は獲得された証拠(派生証拠)の証拠能力について,判例の立場及び主要な考え方をふまえたうえで,具体的事例に即して説明することができる。 *違法収集証拠排除の申立て適格の内容を理解している。 *違法収集証拠の取調べに対する同意があった場合の処理について,判例の立場及び主要な考え方をふまえて説明することができる。 *私人によって違法に獲得された証拠の証拠能力について理解している。
  8. 【 期末試験 : 定期試験の期間における期末試験の実施 】 《到達目標》 *授業の目標に相当する能力をもとに,刑事訴訟法の領域におけるさまざまな事例・事案を適確に解決することができる。

教科書

《 教科書に関する説明 》 基本書として,1の教科書をもれなく購入して使用すること。また,必携の教材として,2の教科書をもれなく購入して使用すること。加えて,さらに体形的ないし詳細に学びたいという意向があるときは,その意向に応じて,第1回の授業で明示する教科書も購入すること。なお,これらのほかに参考となるものも第1回の授業で紹介する。

  • 『リーガルクエスト刑事訴訟法(第2版)』

    著者: 宇藤崇=松田岳士=堀江慎司

    出版社: (有斐閣・2018年)

  • 『刑事訴訟法判例百選(第11版)』

    著者: 大澤裕=川出敏裕編

    出版社: (有斐閣・2024年)《 2024年3月刊行(予定) 》

参考書

《 参考書に関する説明 》 参考となるものを第1回の授業で紹介する。

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