刑法基礎*

専門職学位課程法学研究科

LWS10800

コース情報

担当教員: 伊藤 渉

単位数: 4

年度: 2024

学期: 春学期

曜限: 月1, 水3

形式: 対面授業

レベル: 700

アクティブラーニング: あり

他学部履修: 不可

評価方法

授業参加

15%

定期試験

定期試験期間中

50%

中間試験

授業期間中

20%

小テスト等

15%

その他

法科大学院の成績評価基準により評価する。 授業参加(15%)は,質疑応答によって評価する(うち基本的知識の確認5%,その場で考える力5%,応答態度5%)。 小テスト(15%)は,重要事項につき受講者の理解状況を確認するための正誤問題とし,おおむね1か月ごとに3回行った上で,事後に解説を行うこととする。

15%

詳細情報

概要

法学初修者を対象として,法学基本科目の1つであるところの刑法について,その基本的内容を学習する。 刑法は講学上,総論と各論に大別される。総論においては,刑罰法令及び犯罪の一般的成立要件(構成要件該当性・違法性・有責性・未遂・共犯・罪数)について解説する。各論においては,刑法典上の犯罪のうち主要なものを取り上げ,それぞれの成立要件について説明する。 授業に必要な資料の配布等は,moodle及びTKCを用いて行うこととする。 受講に当たっては,LOYOLAの履修登録とは別に,moodleの登録キー(開講1週間程度前までにLOYOLAの授業掲示板にて連絡)を用いてコース登録を行うことが必要となる。

目標

刑法総論及び各論上の基本的問題点について,一通りの理解を得たものと認められること。

授業外の学習

・予習事項:指定テキスト・配布資料等,指示されたものにつき,目を通しておく。 ・復習事項:重要論点及び関連判例について確認する。 ・講義スケジュール中,*を付した事項については,基本的事項を説明した上で,詳細については受講者の自習に委ねる。その場合,テキストその他参照すべき物については,その都度指示ないし配布することとする。

所要時間: 予習1時間40分,復習1時間40分

スケジュール

  1. 刑罰法令の基本原則 ・刑罰制度の全体像(刑罰の意義・種類・適用方法) ・刑罰法令の諸原則(罪刑法定主義・法益保護主義・責任主義) ・罪刑法定主義の意義と諸問題(法律主義・事後法の禁止・類推解釈の禁止・実体的適正) 【到達目標】 〇現行刑法典における刑罰制度の概要を理解する。 〇刑罰法令の諸原則を理解する。 〇罪刑法定主義の意義及び派生原理を理解した上で,問題となる点を把握する。
  2. 犯罪論の体系・構成要件該当性(総説) ・犯罪の一般的成立要件(構成要件該当性・違法性・有責性) ・構成要件と違法性・有責性の関係 ・各種の構成要件要素(身分犯・危険犯・目的犯・終了時期等)* 【到達目標】 〇犯罪の一般的成立要件としての構成要件該当性・違法性・有責性の意義について理解する。 〇構成要件と違法性・有責性相互の関係を理解する。 〇各種の構成要件要素について理解する。
  3. 構成要件該当性(因果関係) ・因果関係の意義・条件関係の存否 ・相当因果関係と危険の現実化 ・因果関係をめぐる判例の状況 特異体質の存在 第三者の行為の存在 被害者の行為の存在 行為者の行為の存在 【到達目標】 〇刑法上の因果関係の意義及び,その要件としての条件関係について理解する。 〇相当因果関係及び危険の現実化についての判断基準について理解する。 〇刑法上の因果関係が問題となった主要な判例につき,その内容を理解する。
  4. 構成要件該当性(不作為) ・不作為犯の意義・真正不作為犯と不真正不作為犯 ・不作為犯の成立要件 不作為の因果関係 不作為の主体の限定(保障人的地位) ・不真正不作為犯をめぐる判例の状況 【到達目標】 〇不作為犯の意義及び種類について理解する。 〇不作為犯の成立要件について,保障人的地位をめぐる問題点を中心に理解する。 〇不真正不作為犯の成否が問題となった主要な判例につき,その内容を理解する。
  5. 違法性(総説・正当防衛と緊急避難(1)) ・違法性の意義・違法阻却事由の種類 ・違法阻却の判断枠組み* ・正当防衛と緊急避難の成立要件(共通点と相違点) 【到達目標】 〇違法性の意義及び,違法阻却事由の種類についてその全体像を理解する。 〇違法阻却の判断枠組みについて,その概要を理解する。 〇正当防衛と緊急避難の成立要件を対比しながら理解する。
  6. 違法性(正当防衛と緊急避難(2)) ・正当防衛状況・防衛行為性に関する判例の状況 侵害の予期 防衛の意思 相互闘争状況・自招侵害と正当防衛の限界 ・防衛の程度と過剰防衛 ・緊急避難の問題点* 【到達目標】 〇正当防衛の要件としての急迫不正の侵害・防衛のための行為,その他自招侵害等正当防衛の限界が問題となった主要な判例につき,その内容を理解する。 〇防衛の程度の要件及び過剰防衛の成立要件について理解する。 〇緊急避難の成立をめぐる問題点について理解する。
  7. 違法性(承諾による行為) ・承諾の意義・法的効果 ・承諾による正当化の限界 ・承諾の有効性をめぐる判例の状況 承諾の任意性 錯誤による承諾 【到達目標】 〇承諾の意義及びその法的効果について理解する。 〇承諾による正当化の限界について,問題点を理解する。 〇承諾の有効性をめぐる問題点及び,これに関する判例について理解する。
  8. 有責性(総説・故意) ・責任の意義・責任要素の種類(原則的責任要素・責任阻却事由) ・故意の意義と内容 ・事実の錯誤の諸類型及び判例の状況 具体的事実の錯誤(方法の錯誤・併発事例等) 抽象的事実の錯誤(符合の限界) 正当化事情の錯誤(誤想防衛等) 【到達目標】 〇責任の意義と責任要素について,その全体像を理解する。 〇故意の意義及びその内容について理解する。 〇事実の錯誤の諸類型の扱い及び,この点に関する判例について理解する。
  9. 有責性(過失・違法性の錯誤) ・過失犯の意義と成立要件(予見可能性・注意義務違反) ・過失犯の成立の限界(信頼の原則等) ・違法性の錯誤をめぐる判例の状況(事実の錯誤との区別) 【到達目標】 〇過失犯の基本的な成立要件について理解する。 〇過失犯の成立の限界をめぐる問題点について理解する。 〇違法性の錯誤と事実の錯誤の区別及び,この点に関する判例について理解する。
  10. 未遂 ・未遂の意義とその成立要件 実行の着手時期の判断基準 実行の着手時期をめぐる判例の状況 ・不能犯との区別基準及び判例の状況 ・中止犯の意義と成立要件 中止行為の意義* 任意性の有無 【到達目標】 〇未遂の意義とその要件としての実行の着手時期の判断基準について理解するとともに,実行の着手時期をめぐる主要な判例につき,その内容を理解する。 〇可罰的未遂と不能犯との区別及び,この点に関する判例について理解する。 〇中止犯の意義及び成立要件について理解する。
  11. 正犯と共犯(総説・共同正犯) ・正犯と共犯の意義・種類 ・共同正犯の成立要件・共同正犯者間の罪責の連帯性 罪名の連帯性 違法・有責評価の連帯性(一部関与者についての過剰防衛等) ・共同正犯の限界(共謀共同正犯)をめぐる判例の状況 【到達目標】 〇正犯と共犯の意義及び種類について理解する。 〇共同正犯の成立要件について理解するとともに,その罪責の連帯性が問題となる場面について理解する。 〇いわゆる共謀共同正犯の限界が問題となった主要な判例につき,その内容を理解する。
  12. 正犯と共犯(狭義の共犯・間接正犯) ・狭義の共犯の処罰根拠・従属性 実行従属性* 要素従属性 ・間接正犯の成立要件と諸類型 ・間接正犯をめぐる学説の状況 【到達目標】 〇教唆・幇助の処罰根拠及びその従属性をめぐる問題点を理解する。 〇間接正犯の成立要件及びその成否が問題となる類型について理解する。 〇間接正犯の成否が問題となった主要な判例につき,その内容を理解する。
  13. 正犯と共犯(身分犯・因果性等) ・共犯における錯誤の扱い ・身分犯をめぐる共犯関係(65条1項・2項の適用) ・共犯の因果性(単独犯との相違)・日常的関与の扱い 【到達目標】 〇共犯における錯誤の扱いにつき,問題となる点を理解する。 〇身分犯をめぐる共犯関係につき,65条1項・2項の解釈を踏まえた上で問題となる点について理解する。 〇共犯の因果性をめぐる問題点につき,単独犯と対比しつつ理解し,併せて日常的関与行為が問題となる場面についても理解する。
  14. 正犯と共犯(承継的共犯・共犯関係の解消等) ・承継的共犯の諸問題(問題となる類型・判例の状況) ・共犯関係の解消(問題となる類型・判例の状況) ・不作為による関与と共犯* 【到達目標】 〇承継的共犯につき,類型ごとの問題点及び,これに関する判例について理解する。 〇共犯関係の解消につき,類型ごとの問題点及び,これに関する判例について理解する。 〇不作為による関与につき共犯の成否が問題となる場面について理解する。
  15. 罪数論 ・罪数論の意義・罪数関係の種類 ・包括一罪・科刑上一罪と併合罪の区別 ・罪数関係をめぐる判例の動向 【到達目標】 〇罪数論の意義及び罪数関係の種類について理解する。 〇包括一罪・科刑上一罪と併合罪の区別について理解する。 〇罪数論をめぐる主要な判例につき,その内容を理解する。
  16. 中間試験 生命・身体に対する罪(傷害・暴行) ・暴行の意義・暴行によらない傷害と判例の状況 【到達目標】 〇暴行の意義・暴行によらない傷害に関する主要な判例につき,その内容を理解する。
  17. 生命・身体に対する罪(胎児に対する侵害・遺棄等) ・人と胎児の関係 人の出生時期* 堕胎行為に係る排出未熟児の地位 胎児性傷害 ・遺棄行為の意義 ・保護責任者の意義(不真正不作為犯との関係) 【到達目標】 〇人と胎児の関係が問題となる場面について理解する。 〇遺棄罪における遺棄の意義を理解する。 〇保護責任者の意義につき,不真正不作為犯との関係を踏まえて理解する。
  18. 自由に対する罪(逮捕監禁・略取誘拐等) ・脅迫・強要罪の成立要件* ・逮捕監禁罪の保護法益・相手方の意思 ・略取誘拐罪の保護法益・監護権との関係 監護権者の承諾 監護権者による行為 【到達目標】 〇脅迫・強要罪の成立要件について理解する。 〇逮捕監禁罪の成立要件を,保護法益・相手方の意思と関連付けて理解する。 〇略取誘拐罪の成立要件を,保護法益・監護権と関連付けて理解する。
  19. 自由に対する罪(住居等侵入)・名誉毀損罪・業務妨害罪 ・住居等侵入罪の保護法益・相手方の意思 管理権者の承諾 立入目的と本罪の成否(集合住宅の共用部分・官公庁等) ・名誉毀損罪の成立要件と真実性の証明 ・業務妨害罪の成立要件* 【到達目標】 〇住居等侵入罪の成立要件を,保護法益・相手方(管理権者)の意思と関連付けて理解する。 〇名誉毀損罪の成立要件及び真実性の証明をめぐる問題点について理解する。 〇業務妨害罪の成立要件について理解する。
  20. 財産に対する罪(総説・窃盗(1)) ・財産罪の全体像(行為態様と行為客体) ・不法領得の意思をめぐる判例の状況 排除意思(一時使用の扱い) 利用意思(毀棄・隠匿との区別) ・他人の占有する自己の財物の扱い(保護法益論) 【到達目標】 〇財産罪の全体像につき,行為態様・行為客体との関係で理解する。 〇不法領得の意思が問題となった主要な判例につき,その内容を理解する。 〇他人の占有する自己の財物の扱いにつき,保護法益論との関係で理解する。
  21. 財産に対する罪(窃盗(2)・強盗) ・占有の存否と帰属・窃盗の既遂時期* ・強盗関連罪(財物強盗・利益強盗・事後強盗)の成立要件と判例の状況 暴行後に取得意思を生じた場合 利益強盗罪における利得 事後強盗罪における窃盗の機会 ・強盗致死傷罪をめぐる問題点(死傷結果の発生原因) 【到達目標】 〇窃盗罪の成立要件としての占有の存否・帰属及び既遂時期について理解する。 〇強盗関連罪の成立要件をめぐる問題点及び,これに関する判例について理解する。 〇強盗致死傷罪をめぐる問題点について理解する。
  22. 財産に対する罪(詐欺・恐喝) ・手段行為と交付行為 手段行為の意義(黙秘による詐欺)* 交付行為の要件(交付意思の要否・内容) ・実質的損害をめぐる判例の状況 対価の提供・公的給付の取得・書面の発行を受ける行為 違法取引* ・権利行使・誤振込等に係る預金残高の払戻の扱い 【到達目標】 〇詐欺罪の成立要件としての手段行為及び,交付行為の内容について理解する。 〇詐欺罪における実質的損害の有無が問題とされた主要な判例につき,その内容を理解する。 〇権利行使と詐欺・恐喝罪の成否について理解するとともに,誤振込等に係る預金残高の払戻をめぐる問題点を理解する。
  23. 財産に対する罪(横領・背任) ・横領罪における自己の占有・不法領得の意思(窃盗罪との対比) ・物の他人性をめぐる判例の状況 非典型担保・二重売買の目的物 違法取引* ・背任罪の成立要件・横領罪との関係をめぐる諸問題 主体(二重抵当等) 任務違背行為・図利加害行為・損害* 【到達目標】 〇横領罪の成立要件としての自己の占有及び不法領得の意思について,窃盗罪との対比において理解する。 〇横領罪における物の他人性に関連する主要な判例につき,その内容を理解する。 〇背任罪の成立要件及び横領罪との関係について理解する。
  24. 公共危険罪 ・放火罪の全体像(行為客体・結果) ・焼損の意義・公共の危険とその認識 ・行為客体をめぐる判例の状況 現住性の有無 複合建造物・集合住宅の扱い 【到達目標】 〇公共危険罪としての放火罪につき,その全体像を行為客体と結果との関係で理解する。 〇放火罪における焼損の意義,公共の危険とその認識をめぐる問題点について理解する。 〇放火罪の行為客体をめぐる主要な判例につき,その内容を理解する。
  25. 偽造関連罪(総説) ・偽造関連罪の全体像(行為客体・行為態様) ・偽造罪の客体(文書概念等) ・有形偽造と無形偽造(形式主義と実質主義) 【到達目標】 〇偽造関連罪の全体像につき,行為態様・行為客体との関係で理解する。 〇偽造罪の客体につき,文書概念をめぐる問題点を中心に理解する。 〇偽造罪における形式主義と実質主義について理解した上で,有形偽造と無形偽造の意義を理解する。
  26. 偽造関連罪(文書偽造の諸問題) ・名義人と作成者の関係をめぐる判例の状況 代理・代表名義の冒用 資格の冒用 通称の使用 ・作成権限の存否・名義人の承諾 作成権限の授権・制限 名義人の承諾があっても有形偽造となる場合 ・無形偽造の間接正犯* 【到達目標】 〇偽造罪における名義人と作成者の関係が問題となった主要な判例につき,その内容を理解する。 〇偽造罪における作成権限をめぐる問題点について理解する。 〇無形偽造の間接正犯の成否をめぐる問題点について理解する。
  27. 国家作用に対する罪(総説・公務執行妨害) ・国家作用妨害の全体像(妨害対象) ・公務執行妨害の成立要件 職務執行に当たり* 公務の適法性及びその判断基準 ・業務妨害との関係及び判例の状況 【到達目標】 〇国家作用を妨害する行為の全体像につき,対象となる公務との関係で理解する。 〇公務執行妨害罪の成立要件につき,公務の適法性の要件を中心に理解する。 〇公務に対する業務妨害罪の成否をめぐる問題点及び,これに関する判例について理解する。
  28. 国家作用に対する罪(司法妨害)・汚職関連罪 ・刑事司法の妨害(参考人の扱い・共犯関係) ・賄賂罪の全体像 ・賄賂と職務の関連性をめぐる判例の状況 【到達目標】 〇刑事司法に対する妨害行為につき,問題となる点を理解する。 〇賄賂罪の全体像について理解する。 〇賄賂と職務の関連性が問題とされた主要な判例につき,その内容を理解する。
  29. 期末試験 【到達目標】 〇刑法総論及び各論上の基本的問題点について,一通りの理解を得る。

教科書

以下に記載のもの。

  • 刑法総論(第三版)

    著者: 西田典之(橋爪隆補訂)

    出版社: 弘文堂(2019)

  • 刑法各論(第七版)

    著者: 西田典之(橋爪隆補訂)

    出版社: 弘文堂(2018)

参考書

  • 刑法判例百選Ⅰ総論(第八版)

    著者: 佐伯仁志=橋爪隆(編)

    出版社: 有斐閣(2020)

  • 刑法判例百選Ⅱ各論(第八版)

    著者: 佐伯仁志=橋爪隆(編)

    出版社: 有斐閣(2020)

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