民事訴訟法基礎*
専門職学位課程法学研究科
LWS10700
コース情報
担当教員: 田頭 章一
単位数: 4
年度: 2024
学期: 秋学期
曜限: 月4, 木4
形式: 対面授業
レベル: 700
アクティブラーニング: なし
他学部履修: 不可
評価方法
授業参加
15%
定期試験
定期試験期間中
50%
中間試験
授業期間中
20%
小テスト等
15%
詳細情報
概要
本講義は,民事訴訟法未修者を対象に,民事訴訟法の概要(第1審の訴訟手続が中心となる)と基本的論点を解説するとともに,将来の発展的・応用的な民事訴訟法関係科目(民事訴訟法A・B等)の履修に必要な事例分析力養成のために,基本的設例を用いた授業も行う。
目標
民事訴訟法の条文および民事訴訟の基本的判例・学説を十分に理解し,基本的な事例問題への対処のための能力を修得することが,本講義の到達目標である。
授業外の学習
毎回の講義範囲を事前に予告するので,指定された資料の精読などを通して,十分な予習をしておくこと(90分程度)。また,各回講義内容につき疑問点を残さないように,復習を必ず行って,知識の定着を図ること(100分程度)。 なお,以上のほか,講義内容の理解を確認するため小テストを実施するので,それに向けてまとめの作業を行うことが求められる。
所要時間: 190分以上
スケジュール
- 1.~2.ガイダンス・民事訴訟法の基礎 民事訴訟法(手続)の基本的な意義を,民事実体法や各種民事手続法等と関係の中で説明し,民事紛争処理システム全体の中での位置づけを明らかにする。また,民事訴訟の法源,目的論等に関する議論など,民事訴訟法の基礎理論に関する議論状況を解説する。民事訴訟手続のIT IT化についても,簡単にふれる。 本授業により,受講生が,民事訴訟とADRとの関係,訴訟と非訟の関係などについて説明できるようになり,民事訴訟制度の基本的位置づけについて,基本的な理解ができるようになることを目標とする。
- 3.~4.訴訟手続の開始,裁判所 民事訴訟手続の基本的な流れを説明したうえで,訴状の記載事項や訴状提起後の訴状審査,送達,訴訟物の特定など訴えに関する論点を解説する。訴えにおける申立てや訴訟物の特定,請求原因の記載の意味などは,具体例をあげて検討する。また,受訴裁判所の意義,裁判官等の除斥・忌避,および管轄等の制度について解説し,管轄・移送の諸問題については,設例を用いて検討する。 本授業により,まず,受講生が,請求原因に基づいて請求が特定され,理由づけられるメカニズムを,訴状審査の手続と併せて正確に理解することを目指す。また,訴訟の主体である裁判所については,裁判権や管轄の基本的理解のほか,具体的事件の各種管轄を学修し,移送等の問題にも対応できるようになることを目標とする。
- 5.~6.訴訟当事者,訴訟上の代理等 訴訟当事者をめぐる各種概念について概説したうえで,当事者の確定,当事者能力,訴訟能力等についての規律,解釈上の争点等を解説する。権利能力なき社団および民法上の組合など当事者能力に関して争いがある事項については,判例・学説を踏まえ,設例を用いて詳しく検討する。訴訟上の代理に関しては,法定代理(代表)・訴訟(任意)代理等の意義を説明し,訴訟代理権の範囲等に関する論点を,設例を用いて検討する。 本授業により,受講生が,当事者および訴訟上の代理人などに関する正確な知識を得るとともに,当事者確定,訴訟上の代理権の範囲等については,具体的な事例問題の解決能力を獲得することが目標である。
- 7.~8.審理の原則,審理の準備 訴訟の審理原則を,口頭弁論,職権進行主義,(当事者および裁判所の)訴訟行為論を軸に解説する。口頭弁論の基本的意義およびそこにおける諸原則(公開主義,口頭主義,双方審尋主義等)などの理解を踏まえて,口頭弁論調書の実際,訴訟記録の閲覧制度など実務的側面についても解説する。口頭弁論等で行われる裁判所および当事者の訴訟行為の意義・種類,私法法規の適用可能性,時機に後れた攻撃防御方法の却下,訴訟上の合意の許容範囲などの重要な制度・争点を解説し,当事者の欠席など不熱心訴訟追行に対する民事訴訟法の対応策についても,設例を用いて検討する。また,口頭弁論の準備のための手続(争点整理手続など)や早期の証拠収集手続などについても説明し,充実した審理のための手続構造を全体的に理解することを促す。 本授業により,受講生が,民事訴訟の審理の基本原則である口頭弁論の諸主義等の意義を確実に理解すると同時に,当事者の欠席の場合の規律などについて,具体的な事例に即して説明できるようになること,および争点整理手続など口頭弁論準備のための制度の重要性を具体的に理解することが目標である。
- 9.~10.事案の解明 裁判資料収集に関する弁論主義については,その内容(いわゆる3つのテーゼ)や根拠についての争いなど基本的事項に加え,主要事実と間接事実との関係や一般条項の特殊性などにまで踏み込んで,主張責任の理解の深化を図る。釈明権・釈明義務の意義と要件については,弁論主義など民事訴訟の基本原則との関係を意識しつつ,判例や設例を用いて詳しく検討する。 本授業によって,受講生が,民事訴訟審理の基本的な考え方である弁論主義と,それを含む審理原則の修正の役割を担う釈明権に関する議論の位置づけを正確に理解し,基本的な設例において,これらの制度,理論の適用を適切に論ずることができるようになることが目標である。
- 11.~12.裁判上の自白,証明の規律 弁論主義第2テーゼの内容を確認しつつ,証明を要しない事実について説明し,「裁判上の自白」の成立要件,撤回要件,間接事実についての自白の拘束力等に関する問題点を,判例学説の議論を参照しつつ,設例を用いて詳しく解説する。また,権利自白についても,裁判上の(事実)自白や請求の認諾との比較を前提に,設例を用いて検討する。事実認定における証拠の役割,証拠方法・証拠資料・証拠原因の概念,さらには証明責任に関する議論の状況など,証拠・証明に関する基本的な知識について解説する。 本授業において,受講生が,審理・判決の基礎としての自白の意味について理解するとともに,権利自白や擬制自白など「裁判上の自白」に関係する諸制度・理論との関係を正確に理解すること,および主張と証拠(事実認定)との関係を明確にしたうえで,証明責任の概念を理解し,事実認定のプロセスを正確かつ具体的に説明できるようになることを目標とする。
- 13.~14.証拠調べ 前回授業までの証明に関する基礎理論を踏まえて,証人尋問,当事者尋問,鑑定,書証,および検証等,個別の証拠調べの意義と手続の流れを解説する。とりわけ文書提出命令に関しては,講義資料に基づき,近時の判例の全体像を理解してもらうと同時に,重要問題(「自己利用文書」の解釈問題など)について,設例を用いて詳しく検討する。 本授業により,受講生が,証明責任や証明の必要性を意識しながら,証拠調べの種類と手続を理解し,文書提出命令などの証拠調べに関する重要な解釈問題については,判例理論の理解と具体的事例への適用ができるようになることが目標である。
- 15.~16.訴訟要件(16回目に中間試験実施予定) 訴訟要件の意義について確認した後,民事裁判権,訴えの利益,当事者適格等の重要な訴訟要件にかかる問題点を解説し,訴訟要件の調査方法を講ずる。とりわけ,訴えの利益については,将来の給付の訴えと確認の訴えを中心に,判例学説を踏まえ,設例を用いて重点的に検討する。また,当事者適格については,当事者概念や当事者能力等との関係を踏まえながら,訴訟担当に関連して,権利能力なき社団の当事者適格にかかわる判例など具体的な事例分析を行う。 本授業により,受講生が,訴訟要件の意義を理解し,訴えの利益等の重要な問題について,判例の正確な理解に基づいて,基本的な設例問題の解決ができるようにすることが目標である。 この頃,中間試験(45分)を予定。詳細は,授業中に説明する。
- 17.~18.判決およびその効力 終局判決による訴訟の終了に関し,裁判および判決の種類(中間判決,終局判決,変更判決等)や仮執行宣言,判決言渡しの手続など,基本的事項について解説し,判決(確定判決)の効力の種類(自己拘束力,既判力,執行力等)の意義についてその概要を述べる。また,処分権主義についての理解を踏まえ,消極的確認判決の一部認容判決の範囲など重要問題について設例を用いて検討する。なお,給付判決の効力に関しては,民事執行(強制執行)手続の視点からも学習する必要がある。将来的には,「民事執行・保全法」の講義の受講を求めたいが,本講義中も,民事執行法の教科書(たとえば,中野貞一郎=下村正明『民事執行法〔改訂版〕』(青林書院,2021年))などを参照して自習しておいてほしい。 本授業により,受講生が,判決をめぐるさまざまな概念を正確に理解するとともに,処分権主義の具体的現れ方とその違反事案の分析・判断ができるようになることが目標である。
- 19.~20.既判力等 既判力の時的限界や客観的範囲に関する諸問題(基準時後の形成権の行使,相殺の例外,争点効等)を,判例学説を踏まえ,設例を用いて検討する。既判力の主観的範囲につき,相対効の原則から出発して,特定第三者への拡張,対世効,反射効などにつき解説する。具体的には,口頭弁論終結後の承継人や訴訟担当の場合の利益帰属主体への判決効の拡張,反射効理論,法人格否認の法理に基づく判決効拡張の可否などの重要問題については,判例学説を踏まえ,設例を用いて詳しく検討を加えることとする。 本授業により,受講生が,既判力の重要性を理解するとともに,それをめぐる基本的解釈問題に対応できる能力を身につけることが目標である。
- 21.~22. 当事者の意思による訴訟の終了 当事者の意思による訴訟の終了については,判決による訴訟終了との違いや,訴えの取下げ,訴訟上の和解等が全既済事件に占める割合とその意味につき解説し,訴えの取下げの要件と効果,請求の放棄・認諾の意義と効果,訴訟上の和解の要件と効果およびそれを争う方法等について,実務的・理論的な問題点を検討する。 本授業により,受講生が,処分権主義の重要な発現形態としての訴えの取下げ,訴訟上の和解および請求の放棄・認諾の意義とそれぞれに関連する解釈問題の意義やその解決のためのポイントを適切に理解することが目標である。
- 23.~24.複雑訴訟の基礎・複数請求訴訟 いわゆる複雑訴訟の概念について,単純訴訟との比較など基本的事項を踏まえたうえで,複数請求訴訟に関して,併合形態の種類,その種類ごとの審理方法と判決のあり方などを解説する。後発的複数請求のケースとして,訴えの変更,反訴,および中間確認の訴えを取り上げ,それぞれの制度の意義や問題点について,説明する。重複訴訟(の類推)に関する判例学説もここで詳しく検討する。 本授業により,受講生が,単純訴訟形態との関係での複雑訴訟形態の意義,特に複数請求訴訟の諸形態を理解し,説明できるようになることが目標となる。
- 25.~26.多数当事者訴訟 多数当事者訴訟の意義および種類を概説したうえで,まず,共同訴訟の審理原則(共同訴訟人独立の原則と必要的共同訴訟における特則)を解説し,必要的共同訴訟(類似・固有)に関連する諸問題を具体的に検討する。同時審判申出共同訴訟,主観的予備的併合などもここで取り上げる。また,訴訟参加の種類について概説した後,補助参加,訴訟告知,さらに独立当事者参加について,設例を用いて検討する。訴訟承継についても,ここで説明する。 本授業により,受講生が,多数当事者訴訟の諸形態の特色を正確に理解するとともに,相続など多数当事者訴訟が問題となる典型的な事例,また独立当事者参加や補助参加が可能となる典型的な事例を具体的に説明し,問題解決できるようになることが目標である。
- 27.~28.上訴・再審,略式手続 上訴・再審については,審級制度や再審制度の趣旨を踏まえて,上訴の利益や不利益変更禁止の原則,重要な再審事由などの個別論点を検討する。複雑訴訟と上訴審における不利益変更禁止に関する判例群などは,具体的・重点的に解説する。少額訴訟手続,督促手続などのいわゆる略式訴訟については,その実務的重要性を踏まえながら,通常訴訟との関係を中心に概説するにとどめる。略式訴訟についての解説時間が不足するときは,受講生の自習のための参考文献等を指示する。 本授業により,受講生が,上訴の利益,不利益変更禁止の原則,さらには判決の無効など,上訴再審における重要な概念につき理解し,各種略式手続の特徴を説明できるようになることが目標である。
- 29 期末試験 〔全体の到達目標〕 民事訴訟法の条文および民事訴訟の基本的判例・学説を十分に理解し,基本的な事例問題への対処のための能力を身につけてもらうことが,本講義の到達目標である。
教科書
三木浩一ほか『民事訴訟法(LEGAL QUEST)(第4版)』(有斐閣,2023年)
参考書
『民事訴訟法判例百選(第6版)』
著者: 高田裕成ほか編
出版社: 有斐閣,2023年