法社会学

法学部

LAW80300

コース情報

担当教員: 太田 勝造

単位数: 2

年度: 2024

学期: 秋学期

曜限: 月2

形式: 対面授業

レベル: 300

アクティブラーニング: なし

他学部履修: 不可

評価方法

授業参加

30%

授業内期末試験

授業期間中

70%

詳細情報

概要

【概要】 講義の主な内容は,種々の社会科学の理論とモデルの基礎を習得し,その上で,それらを用いて法の解釈適用や立法活動を考え直す,というものである.ある法解釈や,ある法政策を採用した場合に,他の選択肢を採用した場合に比べて,人々の行動や社会のあり方にどのような違いをもたらすかを検討して,より良い立法や法解釈を考え直す.また,ある法的ルールや法システムについて,人々がどのような態度や評価をしているかの探求も行い,それを法解釈や立法に活かすにはどうするべきかをも検討する.ゲーム理論,社会選択論,ミクロ経済学,社会調査法,データの統計分析,法心理学,確率統計論,認知科学など種々の社会科学の理論とモデルと知見を方法論として探訪した上で,各論として,法の種々の領域の諸問題について新たな光を当てる形で,講義を進める.講義内容と順序はシラバスから適宜入れ替えを行う場合がある. 講義形式で授業を進める.

目標

【到達目標】 科学技術および社会科学の進展に伴い,法解釈の在り方も,立法や裁判による法創造の方法も,さらには行政における法の解釈適用の在り方も,大きな変革を迫られている.立法においても,司法においても,行政においても,科学技術や社会科学の成果を採り入れて,合理的立法・合理的法解釈を実践しなければならない.ここでの「合理性」とは,事実と証拠に基づいて法創造や法解釈を行う方法であり「エビデンス・ベース・ロー(Evidence‐Based Law: EBL)」と呼ばれる. エビデンス・ベース・ローは合理的な医療実践である「エビデンス・ベース・メディシン(Evidence‐Based Medicine: EBM)」や合理的な政策決定である「エビデンス・ベース・ポリシー(Evidence‐Based Policy: EBP)」と同じ方法論に基づくものである.エビデンス・ベース・ローにおける方法論を「立法事実アプローチ」と呼ぶ.立法事実アプローチを習得することが最終的な到達目標である. 社会科学,自然科学の様々な理論と手法の中で,エビデンス・ベース・ローに「使えるもの」を駆使して,法政策と法効果を探求してゆく. このように,エビデンス・ベース・ロー,そして立法事実アプローチは,単に将来法律に関わる実務に就く学生諸君のみならず,公務員やビジネスの分野で将来活躍しようとする学生諸君にとっても重要な意義がある.

授業外の学習

トピックによっては論文抜粋や統計資料などの教材をPDF化してホームページなどを通じてあらかじめ配布するので,学生諸君には授業までにそれらを読んでくることを期待する.

所要時間: 200分

スケジュール

  1. 第1回 法社会学の基本的視座 経験的社会科学としての法社会学が,法解釈学といかなる点でどのように異なっているのかを考察しつつ,エビデンス・ベース・ローと立法事実アプローチへの導入とする.
  2. 第2回 立法事実アプローチ:エビデンス・ベース・ローへ向けて 事実と証拠に基づいた法政策や法解釈をエビデンス・ベース・ローとして定式化する.その上で,合理的に社会的望ましさを追求する法学の方法論としての立法事実アプローチを展開する.事実命題(is)から当為命題(ought)を安易に推論する「自然主義的誤謬(naturalistic fallacy)」に陥ることなく,法について合理的に議論するための条件を検討する.
  3. 第3回 社会調査法:立法事実の探求方法 立法事実アプローチで最も重要なことは,法的ルールの諸選択肢に対する人々の評価や態度と(事前・事後の正当性という社会的事実),施行された法的ルールがその目的を合理的に達成しているか否かという社会的事実の探求である.社会的事実の探求の様々な方法のメリットとデメリットを検討する.
  4. 第4回 データ・サイエンス:調査データの統計分析 社会調査によって収集されたデータを分析することで,初めて立法事実の有無というエビデンスが得られる.統計的検定の方法について,一般論と具体的方法とを説明する.エクセルなどを用いた実習も採り入れたい.時間が許せば,p値を判断基準として重視する従前の「帰無仮説有意性検定」に変わって主流化しているベイズ統計分析にも触れたい.
  5. 第5回 社会秩序と法:均衡とジレンマ 社会秩序とは何であろうか? 様々なモデルが提示されているが,ここでは均衡状態という,外からの偶発的ショックが加わらない限り維持されると期待されるような社会状態としてモデル化する(ナッシュ均衡).その上で,社会秩序が社会的に望ましい場合とそうでない場合とを区別できるような社会的評価基準を検討する(パレート最適).望ましくない社会秩序を改善するツール(道具)として法を位置づける.
  6. 第6回 社会的望ましさの基準とは?:法的正義と政策的合理性 社会的望ましさの基準としてパレート最適(効率性),分配的正義(公正性),および手続的正義について考察する.法システムを,社会をより良くするための人工的な道具であると位置づけた場合(法的道具主義),効率,公正,手続的正義はどのような関係にあるかを分析する.
  7. 第7回 法の民主的正当性とは?:多数決投票と「民意」 選挙,議会,裁判における合議,株主総会など,法に関わる社会の様々な場面における社会的決定手続きとしては,多数決が採用されることが圧倒的に多いと言える.法的決定の正当性は究極的にはその民主的正当性,すなわち「民意」に帰着すると言える.そこで,社会選択論の成果を探訪しつつ,法の民主的正当性について考察する.
  8. 第8回 弁護士実務と認知脳科学 認知脳科学は行動経済学を産み出した.法学の分野ではまだ大きな影響を与えていない.しかし,弁護士実務は認知脳科学の知見と理論とを参照することで,その実効性を大きく強化できる.最先端の弁護士実務のあり方を考えたい.
  9. 第9回 行動経済学と消費者契約 社会心理学の成果の影響から行動経済学が発達している.生身の消費者の持つ様々なバイアスとヒューリスティクスによる危うい判断行動を明らかにし,長期消費者契約に新たな光を当てる.
  10. 第10回 損害賠償制度:存在理由と社会的機能 社会のなかで一定の確率を以て必然的に生じる事故や事件が紛争となった場合,最終的には裁判を通じて損害賠償を争うことになる.損害賠償制度を社会がコストを掛けて設営することの意義を探求する.損害保険制度や責任保険制度との関連性についても考察する.従来の不法行為の法理論とは大きく異なる視点から検討する.法と経済学の成果を採り入れる.
  11. 第11回 司法制度:存在理由と社会的機能 民事裁判を中心として,手続的正義の社会心理学の成果を探訪する.また,事実認定や法的推論在り方について考察する.従来の伝統的な民事訴訟理論とは大きく異なる視点から検討する.社会心理学,実験室実験,統計的意思決定論,期待効用理論などの成果を採り入れる.
  12. 第12回 裁判外紛争解決制度(ADR):存在理由と社会的機能 交渉,調停,仲裁,若いなどの裁判判決以外の手段による紛争解決について考察する.従来の伝統的な民事紛争解決制度理論における「判決中心主義」とは逆転の発想である「交渉中心主義」を打ち立てて分析する.日本におけるADRの概要も説明する.
  13. 第13回 生成AIによる裁判とADRへの支援 生成AIの急速な発達によって,人々の生活も企業行動も大きく変容を迫られている.民事裁判のIT化も2026年の完了を目指して進められている.裁判の構成要素である事実認定,法的当てはめ,判決推論をAIにさせる研究が進んでいる.このような研究は裁判のみならずADR(ODR:オンライン紛争解決制度)へ大きな変革をもたらすであろう.
  14. 第14回 DNA型鑑定のインパクト PCR技術,CRISPR-Cas9などの発展によって親子関係や生殖医療,犯罪捜査などが大きく変容してきている.PCR技術の基礎,DNA型鑑定の基本,系統遺伝学を用いた犯罪捜査など最新のトピックを考察する.
  15. 第15回 (定期試験) 定期試験において測定する達成目標は以下である.経験科学的法社会学の理論と治験を修得し,法実務において活用できるレヴェルに到達しているか.とりわけ立法事実アプローチによるエヴィデンス・ベース・ローを修得し,実務で活用できるか.さらに,法と経済学,法と行動経済学,法と社会心理学,法と統計学,法と認知脳科学,法とAI,法と進化論等の学際的方法論と知見を修得し,法実務で活用できるレヴェルに到達しているか.以上を測定する.

教科書

指定はない.

    参考書

    授業内容のPDFを事前配布する.

    • AI時代の法学入門:学際的アプローチ

      著者: 太田勝造(編著)

      出版社: 弘文堂・2020年

    • 法実務と認知脳科学:交渉・説得・弁論(太田監訳)

      著者: ダニエル・E・ホロウェイ

      出版社: 木鐸社・2021年

    • 法教育の教え方と学び方:クリティカル・シンキングのすすめ

      著者: 太田勝造(監訳)

      出版社: 弘文堂・2023年

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