開発の社会学
総合人間科学部 - 社会学科
HSC54200
コース情報
担当教員: 佐藤 裕
単位数: 2
年度: 2024
学期: 春学期
曜限: 木3
形式: オンデマンド授業+同時双方向型授業(Zoomなど)
レベル: 300
アクティブラーニング: なし
他学部履修: 可
評価方法
リアクションペーパー
レポート
その他
本科目では毎回の出席を確認はしない。
詳細情報
概要
途上国(the Global South)の民衆は,過去の植民地支配の残滓が色濃く残る「国民国家」の枠内で,今日にいたるまでエスニック問題や貧困,文化的支配の問題に直面している。グローバル化は途上国の民主化や経済発展,市民社会の国境を越えた連帯を可能にする一方で,先進国との支配-従属関係や国内の不平等,文化間対立を深化させている。本科目では,これら諸問題の背後にある社会構造の地域・歴史横断的な理解をめざす。 前半では途上国の開発/発展と社会変動を植民地支配,冷戦,グローバル化の歴史的文脈から理解する。後半では途上国の社会変容を,国民国家,市民社会,都市コミュニティ,ジェンダーといった水準で考察する。国家間の相互依存関係は,モノや人の移動のみならず,文化・制度・規範の越境をも促す。本科目では,それにより途上国の固有の社会制度がどう変化し,民衆がそれにどう対応しているのかといったた問いに対する概念や視点,分析枠組みを提供したい。
目標
(1)開発/発展(development)にかかる諸問題が,戦後の国際関係と国際開発の政策および思想のなかでどのように位置づけられてきたのかを理解することができる。 (2)開発/発展の諸課題に対する社会学の位置づけやアプローチの全容を把握することができる。
授業外の学習
新聞記事に日々,目を通すこと。途上国の開発や発展に関しては,アジア経済研究所のウェブサイトから多数の資料を検索することができる。また,途上国の開発問題については英国の高級紙,The Guardianの常設サイトである "Global Development" などに多数の記事やエッセイが掲載されている。
所要時間: 190分
スケジュール
- 導入 開発社会学(Sociology of Development)の射程を社会学と国際開発論それぞれの文脈で紹介する。
- 社会学と開発研究 開発/発展の思想や政策を,植民地時代から戦後にいたるまでの国際関係の文脈で捉える。
- 近代化理論と途上国 1950–60年代に勃興した近代化理論を,国際・国内政治ならびに社会・文化論の両面で捉えたうえで,戦後の国際秩序のなかで途上国にどう適用されたのかを理解する。
- ビデオ鑑賞 一次産品の生産と貿易を軸に,グローバルな政治経済における不平等を理解し,次週の学習に役立てる。
- 低開発と従属理論,世界システム理論 1960年代後半~70年代に台頭した従属理論とその後の世界システム理論を,グローバルな不平等と途上社会における階級,ジェンダー,エスニシティの文脈で理解する。
- 開発主義,民主化とアジアの政治社会変動 1970年代以降に急速な発展を遂げた東・東南アジアを事例に,経済成長と政治体制の連関や権威主義体制の光と影を解説する。
- 新自由主義と新しい国家-社会関係 1980年代以降に途上国開発の主流となった新自由主義の原理と,そのグローバルな生産・労働・政策面での再編を理解する。
- 途上国の都市化とスラム経済 植民地期から国家建設,グローバリズムにいたる流れにおいて,人口・貧困・政策の都市化がもたらした途上社会の変動をキーワードを交えて解説する。
- ビデオ鑑賞(都市開発とスラムの強制移転) インドや中国における都市再開発を事例に,撤去民たちの生業,生存維持の剥奪とジェンダー差別などを開発と市民的権利の観点から理解する。
- グローバル都市・国家・格差 先進・途上の別を問わず各国で進展する新自由主義的なグローバル化をふまえ,都市経済の再編成をジェントリフィケーション,階層分化,貧困層の立ち退きなどの側面から解説する。
- 開発のなかのジェンダー 途上国女性をとりまく社会経済的格差をふまえながら,ジェンダー不平等を測る指標,女性に対する国際開発政策,草の根の女性運動が開発研究にもたらしたインパクトを理解する。
- ビデオ鑑賞 西または南アジアの女性を事例に,教育・就業上の男女差別や男性中心の家族・地域コミュニティを支える文化規範を理解し,あらゆる制約のなかで女性が経済的・社会的に自律性を確立する事例を学ぶ。前週の学びの補強が目的である。
- 開発における多文化主義を求めて――文化的自由と人権 途上社会における文化的自由を,個人の権利と集団のアイデンティティの諸問題を中心に,開発と発展の観点から理解する。
- 越境する開発――民主主義と文化の軋轢 全体のまとめ 「普遍的な価値」として理解されている民主主義を人間開発と社会変動の関連で理解するとともに,権威主義と民主主義をめぐる価値観のせめぎあいを事例を交えて解説する。
教科書
なし
参考書
以下,代表的な文献のみを記す。
開発社会学を学ぶための60冊――援助と発展を根本から捉えよう
著者: 佐藤寛ほか編
出版社: 明石書店,2015年
開発と発展の社会学
著者: 小倉充夫
出版社: 東京大学出版会,1982年
開発とジェンダー――エンパワーメントの国際協力
著者: 田中由美子・大沢真理・伊藤るり編
出版社: 国際協力出版会,2002年