芸術学I

文学部 - 哲学科

HPH56100

コース情報

担当教員: 桑原 俊介

単位数: 2

年度: 2024

学期: 秋学期

曜限: 水5

形式: 対面授業

レベル: 300

アクティブラーニング: なし

他学部履修:

評価方法

出席状況

10%

リアクションペーパー

20%

レポート

70%

詳細情報

概要

19世紀末における映画の誕生は,人間の知覚の新しい形式を,つまり新しい経験の形式をもたらした。このような映画に固有の知覚や認識の形式は,歴史的にどのように誕生し,どのような技術的・技法的模索を経て現在の形に収斂していったのか。またそこにはどのような人間の新しい知覚の可能性が開けているのか。 本講義では,静止画が動画として知覚される生理的メカニズムの発見とそれを可能にした諸技術の発見,さらには映画が「物語」として制作・認識されるようになる過程,あるいは,記号論や主題論に即した映画の認識の形式,表象可能性の問題など,映画の知覚や認識の形式に関わる多種多様な問題を,特に映画の技術的・技法的変遷に注目しつつ歴史的に考察する。それを通じて,人間の知覚や認識が決して自然なものではないこと,それはむしろ,知覚の相関者となるメディアの形式に従って共犯的に組織されていること,さらに,メディアを介した知覚は,現実の知覚とは異なるリアリティの所在を有することなどが,具体的な作品と理論に即しつつ,歴史的に明らかになることを目指す。 なお,授業に関する詳細は,Moodleにて指示するので,初回までに必ず確認しておくこと。 以下の映画を授業開始までに観ておくことを推奨する。 ・D. W. グリフィス『國民の創生』『イントレランス』 ・セルゲイ・エイゼンシュテイン『戦艦ポチョムキン』 ・オーソン・ウェルズ『市民ケーン』 ・アルフレッド・ヒッチコック『サイコ』『めまい』

目標

映画に固有の知覚や認識の形式やその可能性を,映画の技術や技法における歴史的展開に即して正しく理解すること,あるいは本講義で得た知見を,自身の映画経験,さらには映画に限定されない様々なメディアにおける知覚のあり方に反省的に適用し,そのあり方を深く観察・思考することが目標となる。本講義を通じて,映画の見え方が根底から変化する体験をもたらすことができればと考えている。

授業外の学習

講義の前には,先行する講義の内容を踏まえ,当回の論題に関して自分なりに考えをまとめておくこと。自身の考えと比較しつつ反省的に聴講することで,講義の理解がいっそう深まるとともに,それに対する批判的な視座を確保することができるようにもなる。 講義の後には,講義内容を各自復習し,レジュメの引用に基づいて,議論を再構成することを試みること。このアウトプットの作業を通じて,講義の内容を自分のものとすることができるのみならず,再構成が頓挫した部分に自覚的になることで,理解が行き届いていない箇所が明確化され,それを手がかりとして,自身の発展的な学習につなげることができるようになる。 また,授業で紹介された映画を,可能な限り鑑賞することが求められる。

所要時間: 200分以上

スケジュール

  1. イントロダクション:映画的知覚,映画のコード,解釈の方法
  2. 映画メディアの誕生:新しい生理現象。視覚の玩具。映画の4技術,リュミエール兄弟:現実の記録,アトラクションとしての映画(ガニング)
  3. 物語としての映画(1):演劇の記録から映画的虚構空間へ:メリエス,ブライトン派,ポーター:演劇からの自立,映画固有の視角の獲得(クロース・アップなど)
  4. 物語としての映画(2):映画的虚構空間の確立:グリフィス:モンタージュ。ハリウッド的映画技法の成立
  5. ソヴィエト・モンタージュ理論:映画の眼(ヴェルトフ),言語理論からの類推(クレショフ),モンタージュの技法化・類型化(プドフキン),弁証法的モンタージュ(エイゼンシュテイン),『戦艦ポチョムキン』
  6. 反モンタージュ(1):ディープフォーカス,現実の曖昧さ(バザン),ネオレアリズモ,バザン批判(ミトリ)
  7. 反モンタージュ(2):ドゥルーズ『シネマ』:二重化される時間(鏡のイメージ,結晶のイメージ),パンフォーカス:断片としての映画(クラカウアー)
  8. 主題論(1):説話論的分析:蓮實重彥『映画の神話学』『監督 小津安二郎』
  9. 主題論(2):新海誠論『天気の子』,『君の名は。』
  10. 映画の自己言及性(ディズニー・プリンセスの変遷)
  11. ホロコーストの表象(1):TV版『ホロコースト』,アラン・レネ『夜と霧』,スピルバーグ『シンドラーのリスト』,ロベルト・ベニーニ『ライフ・イズ・ビューティフル』,クロード・ランズマン『ショアー』など
  12. ホロコーストの表象(2):表象の不可能性:『ショアー』,『アウシュヴィッツと表象の限界』,『『ショアー』の衝撃』,アガンベン『アウシュヴィッツの残りのもの』
  13. ポスト・シネマ:カメラアイ:Edward Branigan: Projection A Camera,レフ・マノヴィッチ『ニューメディアの言語』,渡邉大輔『新映画論』
  14. Virtual Reality (XR):メタバース:VRの文化史・技術史,メタバース上の人格

教科書

特になし。随時,Moodleに資料を掲載する。

    参考書

    参考書は膨大なので,授業で適宜紹介する。

    • A History of Narrative Film (Fifth Edition)

      著者: David A. Cook

      出版社: W. W. Norton & Company 2016

    • 『フィルム・アート――映画芸術入門』

      著者: デヴィッド・ボードウェル,クリスティン・トンプソン

      出版社: 名古屋大学出版会,2007

    • 『映画論の冒険者たち』

      著者: 堀潤之,木原圭翔(編)

      出版社: 東京大学出版会,2021

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