美学I
文学部 - 哲学科
HPH32100
コース情報
担当教員: 桑原 俊介
単位数: 2
年度: 2024
学期: 春学期
曜限: 水3
形式: 対面授業
レベル: 300
アクティブラーニング: なし
他学部履修: 可
評価方法
出席状況
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レポート
詳細情報
概要
美学とは,18世紀中葉にドイツの哲学者バウムガルテンによって創設された学問である。そこでは主に「感性」「芸術」「美」という3つの概念が哲学的に議論される。本講義では,これら3種類の概念の歴史的展開を,古代から現代に至るまで通史的に検討する。その際,特に「真理」の問題を軸として整理する。 美学が創設される以前,真理は「知性」に限定され,「感性」は真理から排除されていた。だがバウムガルテンは「感性」に関しても真理が承認されうるとして,感性に独自の真理である「感性的真理(veritas aesthetica)」という新しい真理の範疇を切り開き,美学という学問をそこに基礎づける。本講義では,このような感性に独自の真理がどのようにして可能になったのか,そしてそれがその後どのように展開したのかという問題を,古代から現代にいたる形而上学(存在論),認識論,神学,修辞学,論理学,現象学,解釈学,フィクション論,実在論といった多様な哲学的文脈の下で明らかにすることを試みる。 春学期は,古代から19世紀初頭までを扱う。
目標
本講義では「真理」の歴史的多様性が問題となるが,この多様性は,真理の「内容」ではなく,その「形式」に関わる多様性である。つまりここでは,真理の一致説,整合説,明証説など,「何が真理か」ではなく,「どのような形式を満たすものが真理と見なされたのか」という真理の形式的条件が問題となる。本講義では,このような形式的条件に即して,感性・芸術・美が,真理とどのように関わってきたのかを,美学の大きな流れの中で理解することが目標となる。
授業外の学習
講義の前には,先行する講義の内容を踏まえ,当回の論題に関して自分なりの考えをまとめること。自身の考えと比較しつつ反省的に聴講することで,講義の理解がいっそう深まるとともに,それに対する批判的な視座を確保することができるようにもなる。 講義の後には,講義内容を各自復習し,レジュメの引用に基づいて,議論を再構成することを試みること。このアウトプットの作業を通じて,講義の内容を自分のものとすることができるのみならず,再構成が失敗した部分に自覚的になることで,理解が行き届いていない箇所が明確化され,それを手がかりとして,自身の発展的な学習につなげることができるようになる。 なお,予習・復習は,各100分以上とする。
所要時間: 200分以上
スケジュール
- 導入:美学とは? 哲学における真理の多様性。美学固有の真理に関する問題。
- ソクラテス以前の哲学者:感性と知性の相克(古代ギリシアの神話的世界観。ミレトス派。エレア派)
- プラトン:①イデア論:真理の定義,感性と知性:世界の二重化:論理的真理と存在論的真理。②詩人追放論:感性(感情)と知性
- アリストテレス:①感性と存在(形而上学),感性論(共通感覚論:霊魂論),②歴史と詩(演劇)(真実と真実らしさ,個別と普遍:詩学),③技術論(知識論)
- 古代ローマ・古代後期(ヘレニズム):真理と美(キケロ,ホラティウス,プロティノス),創造説と真理(アウグスティヌス)
- 中世:光の形而上学,数の形而上学。準イデア。真理と教育(ボエティウス),存在の真理(トマス),創造説の変容(クザーヌス)
- ルネサンス:造形芸術と真理:自然主義,科学主義。イデアからアイデアへ。人文主義:人間の自由,絵画論
- マニエリスム・バロック:イデア論 vs 内在形相説。16世紀におけるアリストテレス『詩学』受容。
- 近代イギリス経験論の美学:ベーコン,ロック,バークリ,ヒューム
- 近代フランス美学:17世紀フランス古典主義理論(ボワロー,シャプラン,スキュデリー,コルネイユ)。新旧論争(ペロー)。真理と真実らしさ。王立アカデミーの役割。「趣味」概念の成立,美の感覚,曰く言い難さ(ブウール)
- 近代ドイツ合理論の美学:感性的真理の3契機:感性的真理,蓋然的真理,可能的真理(ライプニッツ,ヴォルフ,バウムガルテン,ゴットシェート,スイス派)
- カントの美学(1)美の分析論:無関心性,目的なき合目的性
- カントの美学(2)崇高論:修辞学的崇高,自然の脅威,バーク,廃墟論(ピクチャレスク),芸術論
- 古典主義・ロマン主義・ドイツ観念論:感性的真理の4側面(整合性,特性描写,理想化,道徳の暗示)
教科書
特になし。随時,Moodleにてレジュメや資料を提供する。
参考書
授業で適宜紹介する。