ドイツ文化研究IIb

文学部 - ドイツ文学科

HGL60300

コース情報

担当教員: 佐藤 直樹

単位数: 2

年度: 2024

学期: 秋学期

曜限: 金4

形式: 対面授業+オンライン授業(オンデマンド授業,同時双方向型授業(Zoomなど)) /Alternating face-to-face & A

レベル: 300

アクティブラーニング: なし

他学部履修:

評価方法

出席状況

40%

授業内期末試験

授業期間中

60%

その他

期末試験は教科書およびノート持ち込み不可。

0%

詳細情報

概要

西洋美術を「見る」とは一体どういう作業なのだろうか。この授業では,西洋美術史を学ぶための方法論を理解するために,各回一人の作家を取り上げ,さまざまなアプローチから美術作品の鑑賞方法を実践的に講義していく。 また,この授業ではドイツ語圏において展開した美術史学の方法論に基づいているが,対象となる時代は古典古代から近代の「バウハウス」前夜まで,地域もイタリア,ネーデルラント(ベルギー,オランダ),フランス,ドイツ,イギリス,北欧と,ヨーロッパ全体を視野に入れているため,美術史を本格的に学びたい初学者にも適している。

目標

これまで漫然と見てきた,あるいは見たつもりにないっている美術作品への学問的なアプローチを学ぶ。また,美術作品を研究するための方法論の実践に触れることで,美術史研究へ興味を開く。

授業外の学習

授業前には教科書で予習をし,授業後はノートを復習してほしい。教科書には授業で講義する内容の50%しか書かれていないため,教科書で予習し,かつ授業でノートをしっかりと取ることが望ましい。

所要時間: 授業の予習と復習で190分。

スケジュール

  1. ガイダンス:古典古代と中世の美術 ルネサンスの古代復興とは何か?ルネサンス期に美の規範とされる「古典古代」の代表作を通してそのイメージを頭にいれる。また,ルネサンス以前の中世の様式,ロマネスクとゴシックの芸術を外観し,その違いを理解する。
  2. ジョット:ルネサンス最初の光 ビザンチン美術の影響の下で生まれたジョット芸術の革新性を代表作から学びながら,中世の聖史劇が繰り広げた実際の舞台装置や役者の演技がジョットに影響を与えた可能性についても考察する。
  3. 初期ネーデルラント絵画1:ロベルト・カンピンの再発見 北方におけるゴシック写実主義の極致がイタリア・ルネサンスの写実性をも向上させたことをロベルト・カンピンの作品を中心に学ぶ。かつ,弟子のロヒール・ファン・デル・ウェイデンとの様式の違いを明らかにする。
  4. 初期ネーデルラント絵画2:ファン・エイク兄弟とその後継者たち 初期ネーデルラント絵画を代表するファン・エイク兄弟の《ヘント祭壇画》に見られる写実表現の工夫に迫る。また,メムリンクやフーホー・ファン・デル・フースに継承されたファン・エイクの写実技法(とりわけ鏡やカーテンモチーフ)についても考察する。
  5. ラファエッロ:苦労知らずの美貌の画家 ラファエッロは,レオナルドとミケランジェロを学びながらこの先輩画家たちを超える名声を手に入れた。その助けとなったのは,ラファエッロが版画という「ニュー・メディア」を通して,自作を世に広めようと考えたことによる。この版画の力を借りることで,ラファエッロ作品の名声は永遠に色褪せず,ラファエッロは古典的アイコンとして17−19世紀の美術アカデミーの手本となっていく。
  6. デューラー:ドイツ・ルネサンスの巨匠 ドイツのルネサンス期を代表する画家アルブレヒト・デューラーの芸術が,初期ネーデルラント絵画とイタリア・ルネサンスの両方から学ぶことで完成していく過程を見ていく。長年の研究の成果「人体均衡論」や,描かれた岩山に「顔」のイメージを潜ませる不思議な創作の源泉がどこにあるのかも検討する。
  7. レオナルド:イタリアとドイツで同時に起きていた美術革命 レオナルドとデューラーが同時に取り組んだ「世界終末のイメージ」「自然研究」「潜在的イメージ」「人体均衡論」について比較しながら,アルプス南北で同時に繰り広げられた国際様式ルネサンス美術を総体的に捉える。
  8. カラヴァッジョ:バロックを切り開いた天才画家のリアル 殺人者にして天才画家,カラヴァッジョの作品を検討することで,ルネサンスとバロック美術の違いを理解する。爪の垢から汚れた足の裏まで,カラヴァッジョは,ルネサンスの理想化された非現実的な人体を捨て,現実に生きる美しい男女をモデルとしたことなど,実物と見まごうばかりの写実性の理解を深める。
  9. ピーテル・ブリューゲル(父):中世的な世界観と新しい風景画 イタリア絵画の影響をほとんど受けず,ネーデルラントの伝統を受け継ぎながら風俗画の新機軸を打ち出したピーテル・ブリューゲル。本講義では,美術史家ハンス・ゼードルマイアが提唱した有名な「ブリューゲルのマッキア(しみ)」理論からブリューゲルの造形原理に迫る。
  10. ゲインズバラとレノルズ:英国で花開いた「ファンシー・ピクチャー」 英国の美術は18世紀になると,オランダのレンブラント,フランスのロココ美術が英国に導入され,飛躍的な進歩を遂げる。ゲインズバラとレノルズは「ファンシー・ピクチャー」と呼ばれる,肖像画とも風俗画ともつかない一種の混合画題の発明により肖像画の歴史に革命を起こした。この講義では,二人の画家を軸にファンシー・ピクチャーの誕生と展開を見ていくことにする。
  11. 世紀のローマ1:ナザレ派が起こした新しい風 19世紀,ウィーンのアカデミーの形骸化した美術教育に嫌気がさしたフリードリヒ・オーヴァーベックとフランツ・プフォルの二人は,美術史上最初の結社「聖ルカ兄弟団」(「ナザレ派」は彼らのあだ名)を結成する。彼らは,憧れのローマに移り住み共同生活を始めた。その様式は時代錯誤そのものであり,ルネサンス期のラファエッロを尊敬していた。ラファエッロが描いたようなフレスコ画を描くことを目指したドイツ人画家たちの思想と作品を学ぶ。
  12. 世紀のローマ2:アングルとその仲間たち フランス・アカデミーのローマ校に奨学生として滞在していたアングルは,ナザレ派と知り合うと,その時代錯誤的な様式から強い影響を受ける。風景画家のコローも,ドイツの風景画家たちとローマ近郊のスケッチを一緒に行っていた。ドイツとフランスの画家たちのローマにおける親密な交流を検証しながら,芸術の都であったローマを学ぶ。
  13. ジョン・エヴァレット・ミレイとラファエル前派:「カワイイ」英国文化のルーツ ナザレ派の影響を受けて,英国でも中世美術やラファエッロ初期までの作品を手本とする「前ラファエル兄弟団」が結成される。その中心人物だったミレイの作風は,ラファエル前派に特徴的な中世的な様式から,次第にレノルズのような英国美術創成期の巨匠に倣ったものに変貌し,兄弟団から離れて,ロイヤル・アカデミーの重鎮になっていく。ミレイは英国の「可愛らしい」子供のイメージを量産すし,現代の「カワイイ」文化の基礎を築いていく。
  14. シャルフベックとハマスホイ:北欧の不安な絵画 ムンクと同時代に活躍したフィンランドの女性画家シェルフベックは,フランス留学で学んだ印象派風な作品がある一方,暗く,強い不安を抱かせる私的感情に満ちた作品が圧倒的に記憶に残る作家である。戦争に翻弄され,亡くなる直前まで自分を鏡で見つめ,痩せ衰える姿を容赦無く描き続けた画家の生涯と作品を学ぶ。デンマークの画家ハマスホイは,オランダ黄金期のフェルメールやデ・ウィッテから学びつつ,モノクロームな色調で,それまでの明るいデンマークの室内画に革命を起こす。当時の国際的な潮流であった象徴派やホイッスラーから強い影響を受け,ナビ派やフェルナン・クノップフの画風とも共鳴していた。シャルフベックとハマスホイという二人の北欧画家が抱いていた不安の表現を理解する。
  15. アンリ・ヴァン・デ・ヴェルデ:バウハウス前夜のモダニズム パリでデビューを飾ったベルギーの総合芸術家ヴァン・デ・ヴェルデは,その北方的な様式が野蛮だと批判にさらされます。しかし,ドイツでは高く評価され,ベルリンとヴァイマルを中心に活動を展開します。のちに,ヴァイマルで美術工芸学校を開校すると,それがバウハウスに繋がっていくのです。美術と工芸,デザインと建築が融合するモダニズム前夜の新しい様式を学びます。

教科書

佐藤直樹『東京藝大で教わる西洋美術の見かた』世界文化社,2021年

    参考書

    書籍情報はありません。

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