国家と主権:歴史,現代,未来
共通 - 全学共通
GSS30120
コース情報
担当教員: 湯浅 剛
単位数: 2
年度: 2024
学期: 秋学期
曜限: 木5
形式: 対面授業+オンライン授業(オンデマンド授業,同時双方向型授業(Zoomなど)) /Alternating face-to-face & A
レベル: 300
アクティブラーニング: なし
他学部履修: 可
評価方法
レポート
小テスト等
詳細情報
概要
主権(sovereignty)は,16~17世紀にかけ戦乱の続く西欧において,政治秩序の安定を目指して産み出され,運用された概念である。それは,21世紀の現代にいたるまで,国家の領域内の統治ばかりでなく,複数の国家どうしの体系である国際社会を制御するための基本概念であり続けてきた。同時に,グローバル化が進む中で,国家が管轄できる/すべき事象には,さまざまな混乱が生じている側面もある。 本講義では,主権概念の思想的展開や現実政治での運用をめぐって整理し,論じていきたい。具体的なテーマとしては,主権概念成立以前の国家(古代ギリシャ・ローマ,近代以前の中国と日本など),宗教改革と主権,ウェストファリア講和前後の主権概念の成立と運用,その後の主権国家体系の拡大,さらに現代のEUのような国家主権の移譲やそれに伴う混乱,ポスト・ソ連空間などでみられる非承認国家,などを考えている。 課題レポートに係る質問や,講義内容に係る疑問・質問については,Moodleメッセージ機能やメールで受け付けるが,レポートやリアクションペーパーの提出状況の確認など,講義の内容と関係のない問い合わせは一切受け付けない。講師がレポートを受領したかどうか,どうしても心配で確認をしたい受講者は,レターパックや簡易書留など到着状況を確認することのできる方法で大学研究室宛てに郵送することを奨める。
目標
本講義では,政治現象を考える上で必須の概念である主権について,政治学的・歴史学的なアプローチによって体系的に論じ,履修する学生それぞれの今後の研究・考察に資するものとすることをめざす。 講義内容では,各時代の個別の主要テキストをとりあげ,主権概念がどのように考えられてきたかを学生に伝えるように努める。また,領土問題や非承認国家をめぐる紛争など,現代世界が抱える課題とその展望についても,この科目の射程に入る。
授業外の学習
受講者は,講義の聴講ならびにレポート作成の準備・執筆を行ってもらう。 レポート課題は複数回課す(最低2回は実施するが,状況に応じそれ以上の課題を出す場合がある)。これらは単位取得のための要件であり,期限までに必ず提出すること(いかなる理由があっても,締切を守れなかったレポートは減点対象となる)。日本語による学術的な文章としての適切さ(文献の引用や書誌情報等の表記を含む)も評価の対象とする。なお,剽窃が発覚した場合は,大学の規則に従い厳正に処分する。 【初回レポート:2024年10月31日締切厳守】 前半期講義の主要テーマとなる世俗的王権と教皇権との関係に係る以下のいずれかの文献(いずれも千円前後で入手可能な文庫本。ただしルター著は品切れのため,古本価格で購入するか,図書館で借りることとなる。)の指定範囲について,要約とともに受講者自身のコメントを付すこと。分量は2000字基準とする。 ●堀米庸三『正統と異端:ヨーロッパ精神の底流』(中公文庫,2013年.¥705+税)第Ⅱ部および第Ⅲ部(115~253頁)の連続する任意の2章分。 ●マルティン・ルター/吉村善夫訳『現世の主権について 他二篇』(岩波文庫,1954年初刷/2014年4刷.¥660+税)所収の「現世の主権について」「軍人もまた祝福された階級に属し得るか」のいずれか。 ●鈴木宣明『ローマ教皇史』(ちくま学芸文庫,2019年.¥1200+税)「3 西欧中世初期」「4 西欧中世盛期」(129~192頁)の全部。 ●オーギュスタン・フリシュ/野口洋二訳『叙任権闘争』(ちくま学芸文庫,2020年.¥1300+税)第1章を除く連続する任意の3章分。 【期末レポート:2025年1月31日締切厳守】 担当教員が学期中(12月前半ごろ)に示す複数の課題について,受講者はそのいずれかを選択して準備・執筆すること。分量など詳細は,やはり上記の時期に示すこととする。
所要時間: 190分(予習として,文献講読に60分,テーマに関する調査に60分,授業後は議論をもとに復習を70分行うこと)
スケジュール
- (以下は昨年度の本科目講義実績を踏まえた計画であり,変更される場合がある。また,大項目〔1. 2. 3. ...〕は授業回数を示すのではなく,その下位の項目〔(1)(2)(3)...〕)テーマを複数回の授業に跨って講義する場合がある。全14回で以下の諸項目について議論する,ということである。) はじめに (1)本講義が目指すもの (2)主権およびそれに関連する概念:基本的な整理 (3)講義を通じての問題
- 主権以前の西欧 (1)主権以前の国家(その1):古代ギリシアなどを題材に (2)中世ヨーロッパにおける教権(教皇権)と俗権 (3)ローマ世界から中世世界へ (4)叙任権闘争とその帰結としての教権(教皇権)の優位 (5)ヴォルムス協約(1122年)とそのフォローアップ (6)教権絶頂期から絶対王政の黎明へ (7)まとめと今後の展望: カントロヴィチの議論を題材に
- 絶対王政期の主権 (1)ヤン・フス(1370?~1415)の宗教改革と異端審問・処刑 (2)中世のなかの近代: 中世の時代に培われていたルネサンス (3)主権をめぐる4人の思想家 (4)マキャヴェリの主権論 (5)マルティン・ルターの主権論 (6)間奏: 絶対王政は「絶対」だったのか (7)中世から近代へ (8)ジャン・ボダンとその時代 (9)絶対王政の域外進出と強権・俗権関係 (10)主権以前の国家(その2):絶対王政期の西欧諸国に邂逅する日本 (11)ホッブスの主権論
- 主権国家体制の誕生? 三十年戦争とウェストファリア講和 (1)三十年戦争: 宗教戦争(宗派間対立)から新旧俗権の対立へ (2)スペインとオランダ独立 (3)ウェストファリア講和
- 三十年戦争後の欧州国際秩序 (1)ベラスケス「ラス・メニーナス」の謎解き,含意 (2)ウェストファリア講和以降の欧州国際政治 (3)ユトレヒト講和:主権国家体系という規範の成立 (4)主権国家体系形成期の主権論 (5)「半主権国家」
- 市民革命と人民主権 (1)三十年戦争とイギリス清教徒革命 (2)人民主権の形態 (3)議会主権,民主的主権,全体主義的主権
- ネイション・ステートの時代: フランス革命後の主権 (1)ネイション・ステートの強靭さ (2)君主制と共和制のせめぎあい: ウィーン体制とその後 (3)「諸民族の春」: 19世紀のネイションとナショナリズム (4)近代主権国家にとっての「場所」=領土 (5)民族自決と主権 (6)領域主権,非承認国家問題
- 主権と人道性 (1)人権の保護と主権 (2)主権と介入 (3)人道的介入
- 主権のゆくえ (1)主権の機能不全? (2)地域主義の現在: 主権と地理空間,政治体制を考える (3)主権と経済 (4)まとめ: 21世紀の秩序の中での主権の可能性
教科書
担当教員自身が講義にあたって主に参照したテキストは次のものであり,受講者に対しても各人の関心に従って部分的にでも精読することを奨める。
Sovereignty: Evolution of an Idea
著者: Robert Jackson
出版社: Cambridge: Polity, 2007
参考書
2020年度の講義にあたって示した主要参考文献は次の通り。この他の参考書は,授業時に必要に応じて示す。
主権・抵抗権・寛容:ジャン・ボダンの国家哲学
著者: 佐々木毅
出版社: 岩波書店,1973年
主権国家体系の形成:「国際社会」認識の再検証
著者: 山影進(編)
出版社: ミネルヴァ書房,2012年
民族とネイション:ナショナリズムという難問
著者: 塩川伸明
出版社: 岩波書店,2008年