心理学再入門

共通 - 全学共通

GSP30250

コース情報

担当教員: 石井 辰典

単位数: 2

年度: 2024

学期: 秋学期

曜限: 金3

形式: オンデマンド授業

レベル: 300

アクティブラーニング: なし

他学部履修:

評価方法

レポート

50%

小テスト等

25%

その他

■ショート・レポート(25%):講義内容の整理・発展的内容についての考察などについての400文字程度のレポート。授業期間中に数回行う予定です。 ■研究参加:心理学研究への参加は,心理学を学ぶ上での貴重な体験となります。そこで,研究へボランティアとして参加してくれた学生には追加点を与えます。

25%

詳細情報

概要

ヒトとは何者だろうか?ヒトの「心」とは何だろうか?こうした問いに答えようとする学問は数多くあるが,その1つに心理学が数えられる。現代の心理学は,自然科学 natural science の枠組みを援用することで「心」とヒトの本質に明らかにしようと試みており,その成果は学術的にあるいは現実場面で役立てられている。 それでは心理学が試みている自然科学的な「心」の理解とは,いったいどのようなものだろうか?これを考察するのが本講義の狙いである。 「心」を科学的に理解するといった場合,そこには2つの水準があると思われる。1つは方法論の水準である。科学的方法論とは客観的証拠・データと論理的推論によって対象についての理論・仮説を構築することとされるが,これを用いることで「自然科学的に心を理解する」ことを目指すのが第1の水準である。一方,第2の水準は認識論に関わるものである。自然科学は,世界を機械論的・唯物論的に解釈することで成功を収めてきた。これと同様に「心」も究極的には「自然」であり「機械仕掛け」とみなすというのがこの水準である。そして現代心理学は,基本的に第1の水準で「科学的」とされることは多いが,第2の水準まで達しているかというと議論の別れるところである。「心」を「機械仕掛け」とみなすという心理学者は,むしろ少ないかもしれない。 しかしながら,現代心理学の1つの特徴とも言える認知主義や進化・適応の概念を採用するアプローチなどは,究極的には機械論的に「心」を還元するものであるし,近年,意思決定や社会行動の研究に計算論モデルやエージェント・ベース・モデルなどが利用されるようになったことで,「機械仕掛けの心」という(実は心理学の成立当初から存在していた)認識は気づかぬうちに我々のうちに浸透しているのではないだろうか。そうであるなら,心理学者を含むこの学問を学ぶ人々は,こうした認識論に真剣に向き合う必要性があるかもしれない。 そこで本講義では,「心」の科学的理解とはどのようなものかという問いを中心に据えながら,学問としての心理学がどのようなものかを解説してゆくこととする。まず,自然科学とは何かを振り返り,次に古代から現代まで「心」がどのように捉えられてきたかについて,心理学史(あるいは心の科学史)を紐解きながら検討する。次に,神経・生理心理学や認知心理学,そして進化心理学といった「認識論としての科学」と直接関わるアプローチに注目し,解説する。これを踏まえて,近年の文化と「心」の関連を巡る議論や,進化のメカニズムから文化の発展や広まりを議論する文化進化論,そして宗教に対する認知・進化科学アプローチについて紹介し,「心」を科学的に理解すること(説明)と人文学的に理解すること(記述)の違いについて,より深く理解してもらいたい。こうした作業を通じて,心理学という学問のあり方や将来像について理解してもらうとともに,「機械仕掛けの心」という認識が我々や我々の社会にどのような影響をもたらすのかについて考えてみてもらいたい。

目標

■科学的に「心」を理解するとはどのようなことかを理解できるようになる。 ■「心」を,脳の働きとして捉えるアプローチ(神経・生理心理学),情報処理機構として捉えるアプローチ(認知心理学),そして進化と適応の産物として捉えるアプローチ(進化心理学)の3つを理解できるようになる。 ■日常生活で直面する人間現象の成り立ちを心理学的に分析することができるようになる。

授業外の学習

■講義内容についての理解を確認するため,Web上で回答する小テストを実施します(30分)。 ■授業期間中に数回,ショート・レポート(400文字程度)を提出してもらいます。これは,講師の出した質問や議論について,学生の皆さんの意見や考えを尋ねるものです。興味深い意見は講義で取り上げます(60分)。 ■また,講義内容を補完するような文献も随時紹介します(テキスト・参考書欄を参照)。これらの文献も各自で読み,理解を深めておくことをおすすめします。

所要時間: 90分

スケジュール

  1. オリエンテーション 講義の内容・進め方や,成績評価の基準について説明します。説明の後は,講義の手始めとして,現代心理学がどのような特徴を持つ学問であるかについて解説します。受講予定者は必ず出席して下さい。
  2. 心理学はどのように生まれたか(1):自然科学の成立
  3. 心理学はどのように生まれたか(2):心理学以前の心の学問
  4. 心理学はどのように生まれたか(3):心理学の誕生
  5. 脳と心:神経・生理心理学のアプローチ(1)
  6. 脳と心:神経・生理心理学のアプローチ(2)
  7. 情報処理機構としての心:認知心理学のアプローチ(1)
  8. 情報処理機構としての心:認知心理学のアプローチ(2)
  9. 適応する心:進化心理学のアプローチ(1)
  10. 適応する心:進化心理学のアプローチ(2)
  11. 「文化」をどう捉えるか(1):文化心理学と制度論アプローチ
  12. 「文化」をどう捉えるか(2):文化の “進化”
  13. 「宗教」をどう捉えるか?宗教学と宗教認知科学
  14. まとめ:心理学は科学を目指すのか,人文学を目指すのか?

教科書

■テキストについては授業内で指示をします。ここでは,心理学一般についての代表的なテキストを挙げておきますので,必要に応じて参照して下さい。 1)鹿取廣人・杉本敏夫・鳥居修晃(編著) 「心理学 第5版」 東京大学出版 2015年 2)長谷川寿一・東條正城・大島 尚・丹野義彦 「はじめて出会う心理学 改定版」 有斐閣 2008年 3)無藤 隆・森 敏昭・遠藤由美・玉瀬耕治 「心理学(New Liberal Arts Selection)」 有斐閣 2004年 4)Spielman, R. M., Jenkins, W. J., & Lovett, M. D. 「Psychology (2e: 2nd edition)」 OpenStax 2020年 URL: https://openstax.org/details/books/psychology-2e?Book%20details

    参考書

    ■講義を構成する上で参考にした文献を挙げておきます。 1)道又 爾 「心理学入門一歩手前:心の科学のパラドックス」 勁草書房 2009年 2)高橋澪子 「心の科学史:西洋心理学の背景と実験心理学の誕生」 講談社学術文庫 2016年 3)エドワード・O・ウィルソン(山下篤子 訳) 「知の挑戦:科学的知性と文化的知性の統合」 角川書店 2002年 4)金杉武司 「心の哲学入門」 勁草書房 2007年 5)池谷裕二 「進化しすぎた脳」 朝日出版社 2004年 6)池谷裕二 「単純な脳,複雑な『私』」 朝日出版 2009年 7)理化学研究所脳科学総合研究センター(編) 「脳研究の最前線(上・下)」 講談社ブルーバックス 2007年 8)小此木啓吾 「フロイト」 講談社学術文庫 1989年 9)ラッシェル・ベイカー(宮城音弥 訳) 「フロイト:その思想と障害」 講談社新書 1975年 10)下條信輔 「サブリミナル・マインド:潜在的人間観のゆくえ」 中公新書 1996年 11)ダニエル・カーネマン(村井章子 訳) 「ファスト&スロー(上・下)」 早川書房 2014年 12)杉山尚子 「行動分析学入門―ヒトの行動の思いがけない理由」 集英社新書 2005年 13)島宗 理 「使える行動分析学:じぶん実験のすすめ」 ちくま新書 2014年 14)道又 爾 他 「認知心理学―知のアーキテクチャを探る 新版」 有斐閣 2011年 15)リチャード・ドーキンス(吉成真由美 訳) 「進化とは何か」 早川書房 2014年 16)リチャード・ドーキンス(垂水雄二 訳) 「進化の存在証明」 早川書房 2009年 17)安藤寿康 「心はどのように遺伝するか:双生児が語る新しい遺伝観」 ブルーバックス 2000年 18)長谷川寿一・長谷川眞理子 「進化と人間行動」 東京大学出版 2000年 19)小田 亮 「ヒトは環境を壊す動物である」 ちくま新書 2004年 20)海外大学のオープンコース:例えばOpen Yale Course "Introduction to Psychology (with Paul Bloom)" URL: https://oyc.yale.edu/introduction-psychology/psyc-110 *動画に加え逐語録(英語のみ)がある

      © 2025 上智非公式シラバス. All rights reserved.