産業論特講Ⅰ
経済学部 - 経営学科
EMG60400
コース情報
担当教員: 高橋 透
単位数: 2
年度: 2024
学期: 春学期
曜限: 月5
形式: オンデマンド授業+同時双方向型授業(Zoomなど)
レベル: 200
アクティブラーニング: あり
他学部履修: 可
評価方法
リアクションペーパー
レポート
その他
定期試験は行いません。成績は毎回の受講レポート内容,個人レポート(商品・事業開発企画書)で評価します。 出席状況は毎回の受講レポート,提出物を通じて確認します。基本的に全日出席が前提です。レポートは日本語以外に,英語でも受け付けます。
詳細情報
概要
これからの日本企業の経営を考えた場合2つの不安があります。1つは価格競争の加速とそのための管理や効率化のさらなる強化によって,働く人が疲弊することです。もう1つはAIなどが進化し,これまで人間がやってきた創造的仕事がAIに奪われてしまうことです。 1つ目の価格競争のための管理や効率化強化の問題は,モチベーションダウンによる社員の退職やストレスによる精神疾患の増加など深刻な問題を生み出しています。また日本で長期間続いてきたデフレ問題や海外の先進国と比較した場合の低賃金問題は,行き過ぎた価格競争,コスト競争が一つの原因となっているように思えます。DXの普及が進むことで,この低コスト化,効率化はますます進むと思います。 2つ目のAIの発展,普及によるクリエイティブな仕事の減少はすでに目の前のものとなってきています。2022年11月リリースされたChatGPTは,ストーリーなど文章の創作AIで,小説,コピーライター,法務,税務,ビジネス関連の出版マーケットまでを破壊すると言われています。 この2つの不安の解決策の1つとして,本授業で述べる顧客経験価値という考え方があります。これまでのビジネスの多くが,売手と買手にはっきり分かれて機能と価格・コストをベースにその都度取引きしてきたのに対し,顧客経験価値の考え方では,企業と顧客が長期の信頼関係を構築し,情報やサービスを双方に交換する中で,機能や価格・コストだけではなく,感覚,感情,思考,行動,共感といった顧客の価値ある経験を創発するというものです。 コスト削減や効率化は進めつつも,人が経験するコトに焦点を当てることで,AIではできない新たな価値を創造することができると思います。それはAIなどのテクノロジーと「競争」するのではなく,「共生」する関係にするべきと思います。顧客経験価値を得るのは基本的に人で,その欲求は常に変化し,高度化していきますので顧客経験価値に関連する仕事はなくならないと思います。 本授業は商品開発が主なテーマですが,その本質を顧客経験価値に置いており,従来のハードの機能中心の単品の開発とは一線を画し,顧客経験価値を生み出す仕組みであるビジネスモデル戦略をベースに置いた商品開発のあり方を論じます。 経済,経営の基礎知識は基本的に不要です。理系で将来研究開発,技術開発をしたい⽅や,外国語や外国社会⽂化の専⾨性を活かし,会社や組織で“企画職”に就きたい⽅,海外市場の開拓に携わりたい⽅,海外からの留学⽣は歓迎です。最終レポートは英語でも受け付けます。 【受講にあたっての連絡事項】 ・毎回の授業での簡単なレポートの提出を義務とします。提出⽅法は指定OneDriveフォルダへのファイル提出とします。OneDriveのURLは初回授業1週間前までに Loyola「授業掲⽰板」に掲出します。 ・最終課題は講師指定メールアドレス宛に提出してください。メールアドレスは,最終課題提出⽅法詳細と共に Loyola「授業掲⽰板」に掲出します。 ・授業はオンデマンドと Zoom を組み合わせて⾏いますが,詳細は Loyola「授業掲⽰板」に別途掲出します。
目標
・「顧客経験価値」を起点した商品・事業開発とそのためのマーケティング戦略,事業戦略の方法を学びます。 ・社会,市場トレンド,そして顧客経験価値などの変化を⽂献などデータで分析するだけでなく,⾃ら観察し,体験することで把握することを学びます。 ・本コースで学習したことをベースにした商品・サービスコンセプト企画書を作成します。
授業外の学習
企画対象の商品・事業企画のための顧客経験価値に関する情報収集,タウンウォッチング(フィールド調査)など
所要時間: 190分
スケジュール
- ガイダンス(オンラインと動画,質疑応答) ・本コースの目的,狙い ・これからの社会,市場における顧客経験価値の重要性認識 ・オンライン授業のすすめ方 ・カリキュラム ・提出課題と提出方法 ・必ず守ること
- 顧客は何を購入しているのか ・サブスクリプション,シェアリングエコノミーで顧客が購入しているのは何か? ・売れる商品が変化している「なりたい自分になれるもの」「自分の好きな空間」 ・予測技術が進みライフステージを意識する消費が成長している ・顧客の価値観変化についていけていない既存業界 ・サイバー空間が普及し刻々と変化する商品の形態とその開発方法 ・個人の主観で考えたものが顧客の欲しいものになることが多い ・顧客は何を購入しているのか
- コトづくりのための「顧客経験価値」の理解 ・まず「商品」の定義を変えろ ・コトづくりのための「顧客経験価値」の理解 ・「顧客経験価値」の詳細構造と仕組みを理解する ・インパクトある顧客経験価値とは ・顧客経験価値のための商品開発の7つのコンセプト ・これまでの商品開発と顧客経験価値のための商品開発の違い ・コンセプト1:商品の開発ではなく意味の開発を目指す ・コンセプト2:新しい意味を作り出せそうな異業種でプロジェクトを組む ・コンセプト3:調査分析からではなく,個人の主観からスタートさせる ・コンセプト4:世の中の変化の本質をつかむ ・コンセプト5:計画よりも身近なことで実証を繰り返す ・コンセプト6:アイデアで終わらずにコンセプト化する ・コンセプト7:ストーリーとしての面白さを妥協しない
- 顧客経験価値のための商品開発の全体設計と準備,事業企画開発フェーズ ・顧客経験価値のための商品開発の全体像とフェーズ ・商品企画の全体像 ・商品開発のフェーズ ・準備フェーズ ・商品企画開発プロジェクトの背景,目的,目標・成果の設定 ・商品企画開発プロジェクトの組織体制づくり ・プロジェクトの実施スケジュールと予算 ・事業企画開発仮説フェーズ ・事業企画開発仮説とは何か ・事業企画開発仮説の4つの視点の具体的な内容と発想 ・効果的な事業企画開発仮説のための3つの方法
- 商品企画開発仮説フェーズ ・機能とコスト中心の商品企画開発から脱却するために ・顧客経験価値を企画するための6つの手法 ・デザインシンキング ・タウンウォッチング ・現場観察(エクスペリアンス調査) ・異業種アイデアソン ・ペルソナデザイン ・カスタマーエクスペリエンスマップ ・顧客経験価値の分析と仮説まとめ ・商品アイデア発想
- オンライン講義 ・顧客経験価値創造とは ・商品企画の楽しさ ・クリエイティブな仕事につくこと ・自己のテーマの商品企画作成の方法 ・質疑:授業のこと ・質疑:授業以外のことでクリエイティブ職につくことなど
- 仮説検証フェーズ ・2つの仮説検証方法 ・マーケティングリサーチ ・新たなマーケティングリサーチの目的とは ・マクロトレンド ・エコシステム(業界構造)分析 ・有望市場分析 ・有望市場とターゲット市場の関係 ・ターゲット市場分析 ・ターゲット市場での競合分析 ・コンセプトメイクに顧客やパートナーを巻き込む方法 ・インターネットを使ったテストマーケティグ,口コミ ・デモパネル,サンプル,モデルを使った調査 ・コンセプトワークショップへの顧客,パートナーの巻き込み ・コンセプトの見直し視点とは
- PoC(実証実験:Proof of Concept) ・PoC(Proof of Concept)の計画 ・顧客経験価値重視の商品企画開発におけるPoCの位置づけ ・PoCの企画方法 ・PoCの実施 ・PoC結果分析
- 事業戦略構想書作成フェーズ-1 ・事業戦略構想とは ・商品ではなく“事業”としての戦略構想 ・事業戦略構想書作成の目的 ・事業戦略構想書の目次構成 ・事業戦略構想書の内容と構想書事例 ・背景・問題意識と事業のパーパス,ビジョン ・事業企画開発仮説 ・マクロトレンド・エコシステム分析 ・市場セグメント・ターゲット市場分析 ・カスタマーエクスペリエンスマップとアイデア発想 ・競合分析
- 事業戦略構想書作成フェーズ-2 ・PoCの概要 ・PoCの分析結果まとめ ・SWOT分析と事業成功の要因 ・商品コンセプト ・ターゲット顧客と顧客経験価値戦略 ・顧客経験価値ストーリー ・ビジネスモデル戦略 ・マーケティングミックス戦略 ・ブランドポジショニング ・価格戦略 ・販売チャネル戦略 ・コミュニケーション戦略
- 事業戦略構想書作成フェーズ-3 ・商品開発計画(技術開発含む) ・マーケティング開発計画 ・財務計画 ・リスク分析,対応策 ・事業開発ロードマップ ・当面のアクションプラン ・アジャイルな開発を実現する実行組織体制
- イノベーティブな商品企画開発実践するためのトレーニング ・顧客経験価値を創造できる人になる方法 ・顧客経験価値経済へのシフト ・自分の生き方,価値観を明確に持ち,人からも学ぶ ・Sense(知覚),Feel(感情)をセンサーにする ・価値ある人的ネットワークを積極的につくり,活用する ・社会課題を考え,実際に行動する ・ヒット商品,競合企業・商品のベンチマーキングを行う ・プロセスを重視する ・小さく始める,スタートアップを経験する
- 組織能力をアップさせる ・商品開発の基本ツールを整備し,実践で使えるようにする ・トレーニングも兼ねた実践商品開発研修を定期的に実践する ・誰もが挑戦できる自由な商品企画開発の場を設定する ・仕事の中で商品企画開発のために自由に使える時間を確保する ・縦割り組織からネットワーク組織へ
- プレゼンテーション(オンライン) ・企画のプレゼンの方法 ・自分の個性を生かす ・誠実さの重要性 ・重要なポイントに絞ったプレゼン ・プレゼンの後の行動 ・商品企画書のプレゼンテーション(代表5名) ・評価・フィードバック ・自分自身が顧客になり顧客経験価値を開発すること ・近未来の提供側と顧客関係は「共創」「協働」にある
教科書
「顧客経験価創造のための商品開発入門」(高橋透著・中央経済社)を使用します。オンデマンド動画,教材は初回授業1週間前までに Loyola「授業掲示板」 で提供します。授業の情報は全てLoyola授業掲示板に掲示しますので,必ず確認してください。
顧客経験価創造のための商品開発入門
著者: 高橋透
出版社: 中央経済グループパブリッシング・2013年
参考書
書籍情報はありません。