特別講義(貧困とコミュニティの経済学Ⅰ)
経済学部 - 経済学科
EEC64300
コース情報
担当教員: 中西 徹
単位数: 2
年度: 2024
学期: 春学期
曜限: 水3
形式: 対面授業+オンライン授業(オンデマンド授業,同時双方向型授業(Zoomなど)) /Alternating face-to-face & A
レベル: 200
アクティブラーニング: なし
他学部履修: 可
評価方法
定期試験
定期試験期間中
小テスト等
その他
学期中に2回の確認小テストまたは紙媒体で提出の小レポート(各20点)を実施し,定期試験にそれを加算した評価点(100点満点)によって成績をつけます。 また,随時,リアクションペーパーを出してもらいます。ただし,これは,書かれた内容によっては評価点に加算することがありますが,不提出や書かれた内容によって減点されることはありません。詳しくは最初の授業において説明します。
詳細情報
概要
Scott(1998)は,開発政策が失敗に終わる論理を,政策における「画一化」(simplification)によって市井の人々の「民衆知」(metis)が駆逐される点に求め,豊富な事例にもとづいて解明した政治学的分析の現代の古典ともいえる書です。この講義では,Scottの議論を手がかりにして,開発経済学と社会ネットワーク分析の視角から,発展途上国における貧困層が有している「民衆知」あるいは「社会慣習」(social custom)に,彼らの「福祉」(well-being)を向上させるメカニズムが既に内在していることを学びます。 講義(Ⅰ)では,まず,開発経済学の理論的基礎を学び,「開発」と「貧困」という概念を再検討します。その上で,主に東南アジアを事例として,貧困層が独自に培ってきた「コミュニティ資源」(community-based resources)の活用と開発経済学の関係について考察します。 この講義(Ⅰ)と秋学期の同名の講義(Ⅱ)は密接な関連を有しますが,独立の科目として履修してもらって構いません。講義(Ⅰ)は開発経済学の視角から,講義(Ⅱ)は社会ネットワーク分析の視角から,それぞれ「貧困」と「コミュニティ」を検討します。
目標
本講義の到達目標は,開発経済学の基礎を習得し,発展途上国における貧困層が有している「民衆知」あるいは「社会慣習」(social custom)に,彼らの「福祉」(well-being)を向上させるメカニズムが既に内在していることを学び,開発と貧困をめぐる諸問題の理解を深めることが目標です。
授業外の学習
授業の予習復習とは別に,いずれかの書を読んでみてください。通読が無理でも,関心をもった章だけでもかまいません。新たな視点を得ることができるはずです。 1)ラワース,ケイト(2018)『ドーナッツ経済学が世界を救う』 (黒輪篤嗣訳)河出書房,2021年に同社より文庫本としても出版。 2)チャン,ハジュン(2015)『ケンブリッジ式経済学ユーザーズガイド』 (酒井泰介訳)東洋経済新報社 3)ミラノヴィッチ,ブランコ(2021)『資本主義だけ残った』 (西川美樹訳)みすず書房 4)中西徹編(2023)『現代国際社会と有機農業』放送大学
所要時間: 190分
スケジュール
- 序論(1回) ・分析の視角:simplificationとmetis ・冷戦と「2045年」を考える ・貧困緩和におけるコミュニティの役割
- 「貧困」と「格差」を考える(1回) ・貧困と格差を概観する ・Homo Deusの未来
- 「農村の貧困」(6回) ・アジア型中小地主制度の諸問題 ・賃金労働制度,分益小作制度,定額借地制度 ・リスクと農地制度 ・ラテンアメリカ型私的大農園制度(latifundio)と零細農場(minifundio) ・農村金融と複合契約(interlinked deals)
- 農村開発とコミュニティ(2回) ・伝統的農村社会 ・"Moral Economy"と「貧困の共有」(shared poverty) ・「緑の革命」の展開と諸効果 ・「緑の革命」と農村社会の変容 ・「遺伝子革命」と有機農業の展開とその影響
- 「都市の貧困」(4回) ・二重構造理論(Lewis ModelとRanis=Fei Model) ・農村都市間労働移動(Harris=Todaro Model)と都市失業 ・効率賃金仮説(Efficiency Wage Hypothesis)と都市失業 ・転職率仮説(Turn-over Hypothesis)と都市失業 ・都市インフォーマル部門(the Urban Informal Sector)
- エピローグ Homo Deusの未来への対応を考える(1回) 貧困とコミュニティを再考する
教科書
講義ノートを配布します。
参考書
①本講義の基本的な視角は次のScottとRaworthの文献によります。 ・Scott, James C.(1998), Seeing Like a State, Yale University Press. ・Scott, James C.(2008), The Art of Not Being Governed, Yale University Press. ・Scott, James C.(2013), Two Cheers for Anarchism, Princeton University Press. ・Raworth, Kate(2017), Doughnut Econmics, Cornerstone.(黒輪篤嗣訳『ドーナッツ経済学が世界を救う』河出書房 2018年,文庫本あり) ②コミュニティの概念については,次の文献を参照します。 ・北原淳(1996), 『共同体の思想』 世界思想社. ・中根千枝(1987), 『社会人類学』 東京大学出版会. ③開発経済学の理論的部分については,主に次の文献に負います。 ・Janvry, de Alain and Elisabeth Sadoulet (2021), Development Economics, 2nd ed., Routledge. ・Basu, Kausik(1997), Analytical Development Economics, MIT Press. ・Perkins, Dwight H., Steven Radelet and David L. Lindauer(2013), Economics of Development, 7th ed., W. W. Norton. ・Ray, Debraj(1998), Development Economics, Princeton University Press. ・Todaro, M. P. and S. C. Smith(2020), Economic Development, 13th ed., Pearson.
ドーナッツ経済学が世界を救う
著者: ラワース,ケイト(黒輪篤嗣訳)
出版社: 河出書房,2018年(文庫本,2021年もあり)
Economic Development, 13th ed
著者: Todaro, M. P. and S. C. Smith
出版社: Pearson, 2020.
Development Economics: Theory and Practice, 2nd. ed.
著者: Janvry, de Alain and Elisabeth Sadoulet
出版社: Routledge, 2021.