南アジア史

総合グローバル学部 - 総合グローバル学科(教授言語:日本語)

BGS55400

コース情報

担当教員: 竹中 千春

単位数: 2

年度: 2024

学期: 春学期

曜限: 月3

形式: オンデマンド授業+同時双方向型授業(Zoomなど)

レベル: 300

アクティブラーニング: なし

他学部履修:

評価方法

レポート

100%

その他

レポート課題:授業を踏まえて自由に分析し論述するもの。形式・字数・締め切りなどの詳細は,適宜授業時に追って指示し,MoodleとLoyolaにも掲載する。

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詳細情報

概要

現代南アジアの政治について一緒に学びましょう。なかでも地域大国のインドは,今や14億に迫る人口を抱え,高い経済成長率を期待され,中国に次ぐアジアの新興大国として注目され,この20年間,日本の重要な外交的パートナーとなってきました。 学期の前半では,主に歴史を取り上げます。インドを含めたインド亜大陸とその周辺には,18世紀後半からイギリスが進出し,19世紀半ばには大英帝国の下のインド帝国が形成されました。その後,自治・独立をめざすナショナリズム運動の時代となり,マハートマ・ガンディーとともに民衆的な非暴力不服従運動が高まりました。第二次世界大戦後の1947年に,イスラーム国家パキスタンと袂を分かつ形で,多宗教の共存する世俗主義的な民主主義国家インドが独立しました。 学期の後半では,冷戦後の時代から現在までの動きを取り上げます。グローバリゼーション時代におけるヒンドゥー至上主義やイスラーム・ファンダメンタリズムの台頭,1998年インドとパキスタンへの核拡散,アフガン内戦と対テロ戦争,印パ間のカシミール紛争,ダイナミックな民主主義の展開,最近のインドの権威主義的な民主主義への変貌などのイシューを考察します。時間の許す限り,ネパール,スリランカ,パキスタン,バングラデシュなどにも目を向けます。学期のまとめの部分で,2010年代以降注目されてきた「インド太平洋」の「海の国際政治」と,「ユーラシア大陸」の「陸の国際政治」の両面から,インドと南アジアの国々の同時代の動きを考察します。 2020年代半ばに向かう現在,新型コロナ・ウィルス感染症とそれによる経済危機の及ぼす長期的なインパクト,米軍のアフガニスタンからの撤退,中国の大国化と挑戦的な対外行動,ロシアのウクライナ侵攻と国際的な緊張の高まり,エネルギー危機と経済悪化,イスラエル・パレスティナをめぐる紛争の激化など,さまざまな出来事が次々と起こり,国際社会が大きく動揺させられています。そうした状況の中で,2023年には広島で開催されたG7首脳会議にもゲストとして招かれ,G20首脳会議も開催したインドは,経済成長を牽引する国としても,グローバルサウスの盟主としても期待されています。そのインドで,2024年には総選挙も予定されています。パキスタンやスリランカなど他の南アジア諸国の動向も含め,ご一緒に考えていきましょう。

目標

現代インドおよび南アジアの現代史を中心にアジアについての基礎的な知識を学び,地域研究の足がかりとするとともに,比較政治学・国際政治学の基礎的な概念や議論も学びます。

授業外の学習

日常的にアジアや南アジアへの関心を持って知識を求めて下さい。以下のような方法があります。積極的にチャレンジしてください。 ①教科書・参考書などを読み、 国際政治学やアジア研究の概念や知識を身につける。 ②新聞・テレビ・インターネットなどを通して関連する情報を入手し理解する。 ③感染症の状況に十分な注意を向けつつ,可能な時期と形により,外国への旅行・短期留学,留学生や外国籍の方々との交流などを試みて, グローバルなコミュニケーションの力を磨く。 ④オンラインでの国際的な交流にもチャレンジしてみましょう。

所要時間: 190分

スケジュール

  1. オリエンテーション(授業計画の説明) ・近現代南アジアにおける3つの国家 オリエンテーションとして,授業の目標や概要とともに,具体的な授業計画を説明する。 近現代南アジアにおける3つの国家として,19世紀から21世紀にかけて,南アジアで樹立されてきた近現代型の国家(帝国主義時代の植民地国家,植民地独立後の国民国家,そしてグローバリゼーション時代に変容する国民国家)について考える。
  2. 南アジアの植民地時代①:自由主義の帝国と植民地国家の樹立 18世紀末から本格化し,19世紀前半に拡大したイギリスのインド亜大陸進出について考察する。自由貿易を謳い,「法と秩序」の樹立をめざしたイギリスが,どのような問題に直面し,どのような軍事進出を果たしたのか。とくに,ローカルな武装勢力や盗賊の平定作戦について,現代の対テロ戦争と対比しながら,考察する。
  3. 南アジアの植民地時代②:植民地国家の樹立 19世紀後半にはイギリスの亜大陸支配は確立し,大英帝国の下でインド帝国が樹立され,ヴィクトリア女王がインド皇帝となった。外来勢力としてのイギリスがどのような国家を作ったのか。イギリスの持ち込んだ統治が,現地社会とどのような摩擦を生み,どのような妥協策がとられたのか。女性,家族,宗教の混在するテーマとして,ヒンドゥー社会で夫を失った妻の殉死(サティー)について取り上げる。
  4. 南アジアの植民地時代③:インド・ナショナリズムの誕生と展開 1885年にはインド国民会議が開催され,それを基盤にインドの自治を構想する政治的な動きが展開することとなった。後に民衆運動を組織する政党としてのインド国民会議派に変貌し,第一次世界大戦中からは自治・独立をめざすガンディー主義的な運動が進められた。インドではどのような反植民地主義的ナショナリズムが生まれ育ったのか。宗教や民族の少数派や虐げられてきた低いカーストの人々はどのような動きを展開したか。多角的に考察する。
  5. 南アジアの植民地時代④ガンディーとその時代 マハートマと呼ばれたガンディーは,どこから来たのか。彼の独特の運動と政治的リーダーシップは,どのように生まれたのか。そして,トップ・エリートも,膨大な数の貧しい民衆も,なぜ彼を国民的指導者として選択し,命をささげたのか。『ガンディー 平和を紡ぐ人』で論じたガンディー論を紹介する。
  6. 年:インド・パキスタン分離独立 第2次世界大戦後,日本が敗北してちょうど2年後にイギリスの支配した地域からインドとパキスタンが分離して独立した。インドは多宗教の共存を謳う世俗主義的な民主主義国家を樹立し,パキスタンはイスラームを柱として東西の離れた領土を持って独立した。分離独立が宣言された後,多くの難民が移動し,悲劇的な暴力も引き起こされた。この歴史的事件を考える。
  7. 独立国家による開発,統合,民主主義 独立後のインドとパキスタンの1950年代,1960年代,1970年代を考える。インドにおいては建国政党のインド国民会議派の下で「一党優位制」の「会議派システム」が形成された。対照的にパキスタンの民主主義は安定せず軍政時代を迎えたが,インドではなぜ民主主義が維持されたのか。その背景を探る。
  8. インド゙民主主義の危機①:女盗賊プーラン現象と貧しい人々の政治参加 開発と統合によって大きく変貌したインドで,どのような現象が現れ,民主主義はどのように変化したのか。女盗賊プーラン・デーヴィーに着目し,貧しい人々の中からどのような反発が生まれ,暴力的な現象となったのか。そして,そうした動きが,より大きな目で見たとき,どのような民主主義的参加につながっていったかを考える。
  9. インド゙民主主義の危機②:ヒンドゥー至上主義的ナショナリズムの台頭 1980年代から1990年代,インド政治は大きく動揺し,一党優位体制の時代が終わり,競争的な多党制の時代を迎える。同時に,多数派のヒンドゥーの人々の中から,イスラーム・ファンダメンタリズムとの対抗を叫ぶ,ヒンドゥー至上主義あるいはヒンドゥー・ナショナリズムが台頭し,世俗主義的な統合を柱としたインド政治を大きく変える。この危機の時代を考察する。
  10. 南アジアの国際政治①:アフガニスタン戦争とカシミール紛争 1947年以後紛争となり,インドとパキスタンが分割し,中国も領土を主張しているカシミールについて,歴史的に検討する。アフガニスタン内戦,アフガニスタンでのアメリカの対テロ戦争,中印国境での軍事的な緊張などの展開を踏まえ,現在どのような状況になっているかも検討したい。
  11. 南アジアの国際政治②:インド・パキスタンの核保有 1998年5月,インドとパキスタンは連続して核実験を行って核保有を宣言し,世界的な核拡散の実例となった。緊張するカシミール情勢と関連して,不安定な両国関係と核戦争の脅威について検討する。
  12. 世紀のインド民主主義:政党再編と選挙 1980-2000年代のインド民主主義について,政党の変化と選挙の動向の分析を基礎に,何億もの有権者から成る「貧しい国の民主主義」がどのように変化し維持されたのかを考える。
  13. 世紀の世界と南アジア:「インド太平洋」と「ユーラシア大陸」の国際政治 インドおよび南アジア諸国の動きを「海の国際政治」と「陸の国際政治」の両面から考える。とくに,アメリカのアフガニスタン撤退,中国の挑戦的な対外政策,ロシアのウクライナ侵攻といった国際情勢の中で,南アジア諸国がどのような影響を受けるか,インドとともに日本の加わるQUADがどのような政策を展開するかを論じていく。
  14. グローバリゼーション時代のインド民主主義とその危機 この数十年間のインドでは貧しい人々,女性,マイノリティなどの「エンパワーメント」が進む一方,強硬なヒンドゥー至上主義運動が拡大してきた。2019年春の総選挙では「改正国籍法」への抗議運動を抑えて大勝したインド人民党が二期目のモディ政権を樹立した。憲法改正と軍事制圧下でのジャム=カシミール州の自治権剥奪と連邦直轄州への分割,強圧的なコロナ対策の失敗と経済悪化,イスラームを含むマイノリティ,女性,反対派の人々の弾圧,メディアや言論の統制などが実施されてきた。2024年総選挙の行方が注目されるが,「イリベラル・デモクラシー」とも呼ばれ,権威主義化が憂慮される今日のインド政治を考察し,講義の結びとしたい。

教科書

最新の自著と,講師の専門である国際政治についての自著を紹介します。各回で必要なものは紹介します。

  • 『ガンディー 平和を紡ぐ人』

    著者: 竹中千春

    出版社: 岩波書店,2018年。

  • 『世界はなぜ仲良くできないの?暴力の連鎖を解くために』

    著者: 竹中千春

    出版社: 2004年出版。CCCコミュニケーションズ,Kinde版。

  • 『インド文化入門』

    著者: 辛島昇

    出版社: 筑摩書房,2020年

参考書

  • 『議論好きなインド人ー対話と異端の歴史が紡ぐ多文化世界』

    著者: アマルティア・セン

    出版社: 明石書店,2008年。

  • 『インド現代史 1947-2007(上・下)』

    著者: ラーマチャンドラ・グハ

    出版社: 明石書店,2012年。

  • 『盗賊のインド史―帝国・国家・無法者』

    著者: 竹中千春

    出版社: 有志舎,2010年。

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